横浜線沿線散歩公園探訪
八王子市大谷町〜暁町
小宮公園
Visited in April 2017
小宮公園
小宮公園は浅川北岸に広がる加住丘陵に位置する都立の公園で、20ヘクタールを超える公園のほとんどをコナラやクヌギを中心とする雑木林が占めている。この一帯は古くから地元では「ひよどり山」と呼ばれて、かつては昼間でも薄暗い山中を小径が抜けるだけの森であったという。現在では周辺はすっかり開発され、公園のすぐ北側には中央高速道路の八王子インターもあって往時の面影も薄れてしまったが、この公園だけは昔ながらの雑木林の自然を残して市民の憩いの場となっている。
小宮公園は八王子市街の北部、大谷町の西部から一部は暁町を含んで広がっており、公園の南側には八王子郵便局の傍らから切り通しを経て大谷町を抜けて八王子バイパスに至る道路が通っている。この道路沿いに駐車場とメインの入口があり、入口の横にはベンチを設置したちょっとした広場やトイレなども用意されている。

大谷弁天池
園内の案内板の設置された入口横に立つと、眼前には雑木林の鬱蒼とした木立が控えており、その中に分け入って行くように散策路が辿っている。入って行くと右手前方、少々低くなって池とその辺に建つ小さな祠が見える。この池は大谷弁天池といい、天明年間(1781〜1788年)の干魃の際に村民の困窮を見かねた八王子千人同心頭の荻原氏が水田を開くために掘り、弁財天を祀ったものであるらしい。現在のお堂は戦後に建てられたものということだが、戦前には八王子の市街から山道を抜けて弁天様に詣でる人も多く、縁日には大いに賑わったものだという。

この弁天池とその周囲は実は小宮公園の区域外なのだが、散策の際に弁天池に立ち寄る人も多く、公園の一部として溶け込んでいるといっていいだろう。池は公園内の湧水を集めて流れる大谷沢から取水しており、池を覗き込むと春にはオタマジャクシなどの姿も見ることができる。
「かわせみの小道」
弁天池の傍らから大谷沢に沿って木道が雑木林の中へと延びている。「かわせみの小道」という。この他にも小宮公園内には雑木林の中を辿る散策路が数多く巡っており、それぞれに「おながの小道」、「しじゅうからの小道」、「ひよどりの小道」といった鳥の名を冠した名が付けられている。

「かわせみの小道」は沢に沿ってほぼ平坦に進む。木道の両脇に広がる雑木林の木々や野草を観察しながら、そしてどこかで鳴く野鳥の声を聞きながらの散策は楽しい。野鳥を目当てに来園する人も多く、望遠レンズを装着したカメラを携えた人たちの姿を見ることも少なくない。

「かわせみの小道」はやがて数本の小道が交差する場所に着く。辺りは少しばかり開けた印象がある。「こなら平」というのだそうだ。大谷沢はそこから左手に大きく曲がり、「かわせみの小道」もそれに沿う。そしてまた散策路の交差点が現れる。「みずき平」だ。さらに進むと「かわせみの小道」は少し広く造られたデッキのような場所で行き止まりになる。この辺りは「ひよどり沢」といい、大谷沢の最上流部にあたる。
「ひよどり山」
「こなら平」や「みずき平」から北へ登る散策路がいくつか延びており、その坂道を登ってゆくとやがて雑木林から抜け出て、開けた草地に出る。この草地の広場は公園の最北部にあたり、最も高所にもあたる。「ひよどり山」である。標高は160メートルほどだという。

緩やかな傾斜を伴った広場は視界が開けて開放感に溢れている。丘を吹き渡る風も爽快で、眼下に見える雑木林の緑も美しく、春には桜やタンポポなどが景観に彩りを添えてくれる。広場の随所にはベンチなども置かれ、西側の隅にはトイレも設置されているので、シートを広げてピクニック気分でランチタイムにするには絶好の場所と言えるだろう。

この広場の北側には公園の周囲を回り込むように抜ける道路が通っており、その道路からなら雑木林を通り抜けることなく、この広場へ来ることもできる。そのため初夏から初秋にかけての季節にはこの広場を直接目指して来るグループや家族連れの姿も少なくない。

広場でお弁当を食べたら、また散策路を辿って雑木林の中に降りよう。登りとは違うルートを選ぶと楽しい。沢に沿った「かわせみの小道」も雑木林散策の醍醐味が味わえて楽しいが、少し高みを行く「しじゅうからの小道」や「おながの小道」もいい。山道のような味わいのある「ひよどりの小道」も面白い。
雑木林ホール
公園の南西側の隅、駐車場脇の公園入口から左に登ったところに管理所を兼ねた「雑木林ホール」という施設がある。どちらかと言えばこぢんまりとした施設だが、雑木林の自然に関する資料や図書などが置かれ、小宮公園の四季折々に見られる野鳥などのビデオも見ることができる。公園内で撮影された写真や、樹木のサンプル、蛇の抜け殻なども展示されているのも楽しい。また林に面した部屋は広く採った窓に双眼鏡が設置され、窓外の野鳥を観察することもできるようになっている。

公園のイラストマップや解説などを記したパンフレットも用意されているので、初めて小宮公園に訪れた人はまず雑木林ホールを訪ねて、予備知識を得てから散策を楽しんでもいいだろう。ちなみにホールは靴を脱いで備え付けのスリッパに履き替えて入室、ホール内での飲食は禁止である。

雑木林ホールの横手にも来園者用駐車場が設けられているが、アクセスするためのルートが地元の人でなければわかりにくい。初めて訪れる人は東側駐車場の利用をお勧めする。
遊具広場
雑木林ホールの西側には子どもたちのための遊具類を設置した広場が設けられている。小宮公園の中で遊具が設置されているのは唯一ここだけで、子どもたちのための遊び場の役割を担う一角だ。広場には複合遊具や小さな子どものためのスプリング遊具、いわゆる“ターザンロープ”などの遊具類が設置されており、子どもたちの人気を集めている。小さな子どもたちとっては雑木林の中の散策より、ここで遊ぶ方が嬉しいかもしれない。普段は近隣に暮らす人たちの日常的な遊び場としても機能している一角だ。
「つつじの小道」
遊具を設置した広場から、公園の外周に沿って北へ「つつじの小道」や「けやきの小道」と名付けられた園路が延びている。西側は道路を挟んで住宅地、東側は園内の雑木林だが、園路の周辺は視界が開けて開放感がある。

植栽された木々の樹形も美しく、園路脇の花壇には四季の花々が植えられて散策の目を楽しませてくれる。「つつじの小道」の脇には、もちろんツツジも植えられている。一角にはユーカリの木が植えられており、その特徴的な樹形が青空に映えて美しい。雑木林の中を辿る小道とも「ひよどり山」とも違った、“丘の上”の爽快感を楽しむことのできる一角だ。
西側の広場
「つつじの小道」をさらに辿って北へ進むと、住宅街に面した三角形のスペースを利用して、公園外縁部に小広場が設けられている。草はらの広場に樹木を配し、ベンチを設けて穏やかな空間が演出されている。この一角も、雑木林散策を目当てに来園した人のためのものというより、近隣に暮らす人たちのための日常的な憩いの場としての役割が大きいのかもしれない。この広場にはカエデの木が多く植栽されており、春の新緑や秋の紅葉がたいへんに美しい。この広場から公園外縁部を辿って300mほど進み、公園北側へ回り込めば「ひよどり山」だ。
こうした雑木林は今では貴重なものになってしまった。雑木林ホールの入口脇にあった公園の航空写真を見ると、周囲を宅地や道路が取り囲む中に小宮公園の雑木林が取り残されたように横たわっている様子がよくわかる。八王子市街のすぐ近くに、これだけの雑木林がよく残ったものだという驚きと共に、「よくぞ残してくれた」という感謝にも似た思いがある。

野鳥観察の趣味の人、雑木林散策の好きな人などはもちろん、ピクニック感覚で家族で訪れても楽しめる。春から初夏にかけての頃がお勧めだが、野鳥観察には木々の葉が落ちた冬がいいだろう。秋の紅葉も美しい。夏には林の一角にヤマユリが咲く。四季折々に楽しめる公園である。
小宮公園
小宮公園
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