神奈川県藤沢市大庭地区に舟地蔵と呼ばれるお地蔵様が祀られている。舟形の台座に乗ったお地蔵様だ。近くには舟地蔵公園という公園もある。新緑の美しい五月半ば、舟地蔵と舟地蔵公園を訪ねた。
神奈川県藤沢市大庭地区のほぼ中央部、大庭城趾公園の南東側、県道43号が小糸川を渡る橋の袂に「舟地蔵」という交差点がある。その交差点脇、小糸川の河岸に「舟地蔵」と呼ばれるお地蔵様が佇んでおられる。お地蔵様の台座が舟型になっており、そこから「舟地蔵」の名がある。小糸川を挟んだ南側には舟地蔵の名を冠した舟地蔵公園という公園が設けられている。小さいながらもさまざまな木々が植えられて緑濃く、美しい公園だ。
この舟地蔵にはひとつの伝説がある。かつて北条早雲が大庭城を攻めたとき、この付近一帯は沼地であったために攻めあぐねていた。北条方は近くに住む老婆から引地川の堤を切れば沼が干上がることを聞き出し、秘密が漏れるのを防ぐために老婆を斬り殺してしまった。後世になって老婆を憐れんだ人々が供養のためにこの舟地蔵を建てたという。伝説はあくまで伝説だが、そうした伝承から遠い昔の出来事に思いを馳せるのも一興というものだろう。
舟型の台座に乗った地蔵尊は特別に珍しいというものではなく、他の地域にも存在し、「岩船地蔵」と呼ばれたりするようだ。神奈川県内では相模原市津久井町や藤野町などの寺に祀られている例もあるようだ。藤沢市大庭の舟地蔵はその伝説も手伝ってか、交差点の名にもなっているからか、知名度の高いものの一つと言っていい。
ところで、なぜ舟に乗っていらっしゃるのだろう。水難に遭って亡くなった人の供養であるとも、三途の川を上手く渡れるようにとの願いであるとも言われる。岩船に乗ったお地蔵様を祀る「岩船信仰」は江戸時代初期の一時期に爆発的に広がったものだという。大庭の舟地蔵が建てられたのも江戸時代になってからだということを考えれば、そうした時代の中で建立されたお地蔵様の一つなのだろう。
大庭の舟地蔵は「史跡 大庭の舟地蔵伝承地」として藤沢市の重要文化財に指定されている。今も花や菓子などが供えられ、土地の人たちによって信仰され、守られていることが窺える。伝説はすでに時の彼方だ。多くの車が行き交う県道43号を前に、今はただ静かに往来の人々を見守っていらっしゃるようである。
「舟地蔵」交差点の南西側には舟地蔵公園という公園がある。1.5haほどの面積の小公園だが、円形を基本デザインにして造られた「出会いの広場」や子どもたちのための遊具を設けた「遊具広場」、植栽された木々の美しい「芝生広場」などから構成されている。園内は端正に整備されている印象で、花壇には花々が咲き、木々の新緑も陽光に輝き、美しい景観を見せる。小さな公園ながら、人工的に造られた公園の美というものを実感する公園だと言っていい。
あくまで近隣に暮らす人たちの憩いの場としての公園で、行楽地的な性格は皆無と言っていいが、舟地蔵参拝の際に立ち寄って、ひとときのんびりとした時間を過ごすのも悪くない。近くのコンビニエンスストアで軽食を買って、公園のベンチで“青空ランチ”を楽しむのもお勧めだ。
舟地蔵の最寄り駅は小田急江ノ島線善行駅だ。ただし2km以上の距離がある。藤沢駅や辻堂駅、小田急江ノ島線湘南台駅などからのバス路線を利用するのが賢明だろう。バス路線の詳細などは藤沢市サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)などを参照されたい。
舟地蔵公園は小さな公園で、来園者用の駐車場は設けられていない。
公園内にはレストランや売店などはない。公園周辺、県道43号沿いや県道47号沿いにレストランやコンビニエンスストアが点在しているので利用するといい。
舟地蔵公園のすぐ北側には
大庭城址公園
がある。中世の山城跡を整備した公園で、緑濃く穏やかな空気感が魅力の公園だ。併せて訪ねてみるのがお勧めだ。大庭城趾公園の北西側、「湘南ライフタウン」内には裏門公園や二番構公園といった小公園が点在している。公園巡りを愉しむのも悪くない。
大庭城趾公園から県道43号を挟んだ東側、引地川の河畔には
引地川親水公園
が設けられている。引地川の上流側には水田の広がる田園風景も残っている。引地川河岸の散策に足を延ばしてみるのもお勧めだ。
舟地蔵(藤沢市観光公式ホームページ)
大庭城趾公園
早春の大庭城趾公園
桜咲く大庭城趾公園
紫陽花の咲く大庭城趾公園
引地川親水公園
河津桜の咲く引地川親水公園
桜咲く引地川親水公園
紫陽花の咲く引地川親水公園