大堂津駅の駅前から100mほど北へ行ったところに「揚場(あげば)踏切」という踏切が設けられている。すぐ西側を通る国道220号と
大堂津漁港とを繋ぐ道路が踏切を渡っている。「揚場」は船荷を水揚げする場所のことだが、大堂津の港は漁港だから“船荷”はすなわち収獲した水産物で、要するに漁から戻った漁船が獲った魚を水揚げする場所ということだろう。その揚場に近い踏切だから「揚場踏切」という名なのだろう。
揚場踏切を渡って港に入ったところは大堂津港の最南端部に当たる場所だ。突堤が沖に突き出し、南側の砂浜と
大堂津の港とを隔てている。突堤の先端部からは西防波堤が延びて沖の波の波を防いでいる。
大堂津港は今では昔ほどの賑わいはなく、どこかのんびりとした小漁港の佇まいだ。
揚場踏切は
大堂津駅から100mほどの距離しかないから、南に目を向ければ駅のホームがよく見える。駅の背後には細田川河口右岸部に延びる丘陵のシルエットが横たわる。夏草に覆われたホームに列車が停車すれば、なかなか興趣に富んだ風景を楽しめる。
夏の午後、揚場踏切を通る人の姿はほとんどない。ときおり行き過ぎる軽自動車は漁港関係者か。自転車を押して通り過ぎる少年はどこへ行くのだろう。ときおり、
大堂津海水浴場で遊ぶ子どもたちの歓声が風に乗って届く。静かに時を刻む揚場踏切である。