佳景探訪
猪苗代湖と磐梯山
猪苗代湖は福島県のほぼ中央に位置する湖で、日本で四番目の面積を誇る。北は磐梯山が聳え、それらが織り成す風景は福島県の象徴とも言えるものだ。残暑の九月上旬、猪苗代湖を訪ねた。



猪苗代湖と磐梯山

猪苗代湖と磐梯山

猪苗代湖と磐梯山

猪苗代湖と磐梯山

猪苗代湖と磐梯山

猪苗代湖と磐梯山
猪苗代湖は福島県のほぼ中央に位置している。北東岸は猪苗代町、南東岸は郡山市、西岸は会津若松市だ。面積は100平方キロを少し超え、水面の標高は514m、最大水深は95mほどだそうだ。猪苗代湖の北には磐梯山が聳える。湖の南側から眺めれば湖越しに磐梯山の山容を望み、磐梯山から見下ろせば猪苗代湖の湖面が日の光を弾く。その景観は福島県の象徴のひとつと言っていい。

「猪苗代」という地名の起こりに興味を覚えるが、諸説あって定かなものはないらしい。猪苗代観光協会によれば「昔、磐椅明神が野猪に苗代を耕作させた」ことからその名があるという説もあるという。磐椅(いわはし)明神は磐梯山の山麓に鎮座する磐椅神社のことで、磐梯山を御神体とする、この土地の古代からの神体山崇拝の拠り所である。この由来は昔話としても語り継がれているようで、話としては面白いが、古くからの土地の呼び名というものは、通常、「音」が重要であって、文字はその音に合わせて後から当てたものがほとんどだ。「猪苗代」という地名も、おそらく「猪(いのしし)」には関係がないのではないか。稲作との関連があるだろうというのは通説のようだが、これも異論があり、さまざまに研究が成されているようだ。

名の起こりも定かではないような地名の土地というものは、たいていは古代から人々の営みがあったものだ。これも猪苗代観光協会によれば、1万2千年前頃にはすでに湖畔に人々が暮らしていたらしいとのことである。山谷や湖での狩猟や漁によって食料の獲得が容易だったのだろうという。湖畔には縄文時代や古墳時代の遺跡が散見されるそうだが、さらに多くの遺跡が度重なる火山活動による泥流の下に眠っていると推測されているという。

現在の猪苗代地域は、福島県から新潟県、山形県に跨がる磐梯朝日国立公園の南端部に当たり、風光明媚な景勝地として知られる。湖岸を辿れば広々と横たわる猪苗代湖の姿も美しく、その向こうに磐梯山を見る構図も素晴らしい。磐梯山から見下ろす猪苗代湖は雄大な印象で、見事な景観だ。猪苗代湖の湖岸にはさまざまに景勝地が点在し、そのすべてを堪能するにはそれなりに時間を要するが、その一部だけでもぜひ楽しんでおきたい。福島観光の際には欠かせない景勝である。
長浜
猪苗代湖の北西側の湖岸に長浜と呼ばれる浜辺がある。猪苗代湖の湖岸の観光地では志田浜と並んで、観光客の姿が多いところだという。国道49号がすぐ横を通っており、無料駐車場も用意されていて立ち寄りやすいからか、そしてまた国道49号を西から辿ってきたときには最初に“湖岸に降りてきた”と実感するところだからだろう。

一角には遊覧船の発着所があり、遊覧船を利用する観光客の姿も少なくないようだ。湖面を滑る船上から猪苗代湖の景観を楽しむのも素敵なひとときに違いない。遊覧船を利用しなくても、のんびりと浜辺を散策するのは楽しい。湖に目を向ければ、雄大に広がる景観の中に、湖上を行き交う遊覧船の姿が見える。その様子もなかなか良い風情である。
猪苗代湖/長浜

猪苗代湖/長浜
磐梯山牧場のそば畑
磐梯山の南麓に磐梯山牧場という町営の施設が設けられている。ジャガイモの収穫体験なども可能で人気を集める施設だが、その一角にはそば畑が設けられており、8月下旬から9月上旬にかけてそばの花の咲く景観を楽しむことができる。

桜並木となった道の両脇、高原の風景の中に設けられたそば畑が白く可憐な花を咲かせる風景は素晴らしいものだ。場所によってはそば畑の向こうには猪苗代湖の姿が見え隠れし、美しい景観の広がりを楽しむことができる。北を振り返れば磐梯山の姿が近い。青空を背景に浮かぶ磐梯山の山頂は勇壮でありつつ優美でもあり、そばの花との組み合わせが風趣に富んだ景観を見せる。“絶景”と言っていい。そばの花が見られる時期に訪れたなら、ぜひとも見ておきたい風景である。
磐梯山牧場のそば畑

磐梯山牧場のそば畑

磐梯山牧場のそば畑
昭和の森
磐梯山牧場からさらに道を辿って上がってゆくと「昭和の森」と名付けられた森林公園が設けられている。ここは1970年(昭和45年)に開催された「第21回全国植樹祭」の際に昭和天皇皇后ご夫妻をお迎えしてアカマツの苗5万本が植樹された公園だという。当時は「天鏡台」という名だったが、天皇ご在位50年を記念して森林公園として整備し、「昭和の森」と名が改められたものだそうだ。

「昭和の森」には樹林の中を辿る遊歩道が整備されているが、いちばんの見所は広場に設けられた展望所からの眺望だろう。展望台に立てば、眼下には猪苗代湖が横たわり、その手前には湖畔の田園風景が広がる。雄大な眺めだ。いつまで眺めていても飽きない。絶景である。

展望台の傍らには「磐梯山ジオパーク協議会」による「猪苗代湖の誕生と成長」と題した解説パネルが設置されている。猪苗代湖は東側にある川桁(かわげた)断層と西側の背炙山(せあぶりやま)断層の間にあり、その断層の外側が隆起、内側が沈降して盆地となり、そこへ水が貯まって猪苗代湖が誕生したのだという。この川桁断層、棚倉構造線と呼ばれる大断層の一部だと考えられているそうだ。棚倉構造線は茨城県水戸市から福島県棚倉町、山形県酒田市付近へと通る断層で、その東西では日本列島の古い岩盤の種類と構造が大きく異なるという。猪苗代湖は地形や地質に興味のある人にも興味深いところなのだ。
昭和の森

昭和の森

昭和の森

昭和の森
小平潟天満宮と天神浜
猪苗代湖の北岸東部に、小平潟天満宮(こびらがたてんまんぐう)が鎮座している。菅原道真を祭神とする天神社で、北野天満宮、太宰府天満宮と共に「日本三大天満宮」に数えられることもある古社である。

境内に由来を記した案内板がある。それによれば、947年(天暦元年)、村上天皇が菅原道真の神像を彫らせたが小さかったため、別のものを彫らせて北野に奉納した。最初のものは彫刻家の家に安置されていたのだが、須磨の人が譲り受けて家に安置し、朝夕に礼拝していたという。その後、滋賀県の比良神社の神良種がこの家を訪問した際、酒を振る舞われたときに神の声を聞き、神像を譲り受け、神の望む地に神社を建てようと神像を背負って旅に出た。全国を旅し、小平潟の地で休んだ後に出発しようとすると神像が重くて持ち上がらない。神がこの地をお気に召したのだと信じ、神社を建て、自ら神官となって祭祀を司った。948年(天暦2年)のことで、それが小平潟天満宮の起こりだという。

小平潟天満宮前の浜辺は、今は天神浜の名で呼ばれる。浜の前は猪苗代湖の北端部だ。浜辺から北寄りに視線を向ければ磐梯山の山容が近い。静かな湖面と弧を描く浜辺、その向こうに聳える磐梯山の姿が風趣に富んだ景観を織り成している。“絶景”と言っていい。その浜辺を寄り添いながら歩くカップルの姿も素敵だ。湖面には水上バイクを楽しむ人の姿もある。今回訪れたとき(2014年9月)、平日の夕方だったこともあってか、浜辺に観光客の姿はほとんど無かった。猪苗代湖の向こうに次第に日が傾いてゆく天神浜の風景はたいへんに美しかった。

天神浜は国道49号から少し離れていて、国道から田園風景の中の道を1km近く辿ってゆかなくてはならない。その道脇にはそば畑が広がっており、訪れたときにはちょうど花の盛りだった。傾きかけた日差しを浴びて輝くそば畑の風景は美しく、さらにその向こうに磐梯山が見える風景などは、これも“絶景”と言っていい。

猪苗代湖/小平潟天満宮と天神浜

猪苗代湖/小平潟天満宮と天神浜

猪苗代湖/小平潟天満宮と天神浜

猪苗代湖/小平潟天満宮と天神浜

猪苗代湖/小平潟天満宮と天神浜
舟津浜と湖南港
郡山市に位置する猪苗代湖の南岸、舟津浜という浜辺がある。周辺には舟津公園という公園や舟津浜キャンプ場、湖南港などの施設がある。湖岸には松の古木が数多く並んで風雅な景観を見せている。浜は大きくはないが、静かで風趣に富んだ佇まいだ。

北を見れば猪苗代湖の向こうに磐梯山の姿が見える。ここから磐梯山の頂上までは直線距離にして20kmほどで、北岸に比べれば倍ほど離れているから、さすがに磐梯山の姿は遠い。その遠さがいい。眼前に広がる雄大な猪苗代湖の向こうに遠く聳える磐梯山、美しい眺めである。

舟津浜の西側には湖南港が設けられている。“港”と言っても、浜辺の一角に桟橋を設けて船が着けるようにしただけのものだ。猪苗代湖は昔から水上交通によって物流を担ってきたが、この湖南港も江戸時代から塩や米、魚などの運送のための港として使われてきたという。やがて湖岸の道路が整備されて陸上交通が発達するにつれて、物流のための水上交通は必要性を失った。戦後は主として観光用の港としての役割を担っているという。

湖に張り出した桟橋の姿も良い風情だが、桟橋を歩いてみるのも楽しい。桟橋の姿と、その向こうに遠く見える磐梯山との組み合わせも興趣に富んでいる。桟橋から振り返れば舟津浜が延びる。その光景も美しい。のんびりと散策しつつ、その風景、その空気感を堪能するのがお勧めだろう。
猪苗代湖/舟津浜と湖南港

猪苗代湖/舟津浜と湖南港

猪苗代湖/舟津浜と湖南港

猪苗代湖/舟津浜と湖南港


猪苗代湖と磐梯山

猪苗代湖と磐梯山
猪苗代湖は周囲長50km近く、その湖岸には数多くの浜辺が点在し、それぞれに美しい景勝を見せる。土産物店なども並ぶ志田浜が有名で観光客も多いが、その他にも立ち寄りたい場所が数多くある。国道49号の近い北岸は立ち寄る人も多いようだが、南岸から西岸にかけては訪れる人も少ないようだ。それだけに長閑で素朴な風景が楽しめる。そのすべてを楽しもうとすればとても一日では足りない。

木々の緑の瑞々しい春から初夏、涼やかな風情が嬉しい夏、あるいはそばの花の美しい初秋、冬の雪景色も美しいだろう。猪苗代湖と磐梯山が織り成す、それぞれの季節の風景を見てみたくなる。名実共に福島県を代表する景勝のひとつである。
参考情報
交通

鉄道を利用する場合は、JR磐越西線を利用し猪苗代湖畔駅で下車すれば猪苗代湖の志田浜に近い。JR磐越西線の猪苗代駅から猪苗代湖北西側の「会津レクリエーション公園」とを結ぶバス路線もあるようだが、便数は多くなく、鉄道での来訪はあまり便利ではないようだ。

猪苗代湖は天神浜や志田浜、上戸浜、遊覧船長浜発着所、南岸部の舟津浜など、磐梯山は中腹の「昭和の森」など、また周辺に点在する観光施設など、随所に駐車場があり、車での来訪が便利だ。

猪苗代湖へ車で訪れる場合は磐越自動車道の猪苗代磐梯高原ICを利用するのが近い。郡山市から国道49号線を西進してもそれほど遠くない。会津若松市街からは国道49号線を東進すればいい。

飲食

猪苗代湖北岸部の国道49号線沿いには飲食店が点在しているが、数はそれほど多くない。猪苗代町の中心部に移動すれば選択肢も増えるだろう。猪苗代湖南岸部には飲食店はほとんど無い。北岸部国道沿いに移動することをお勧めする。

周辺

猪苗代湖の北岸部からは会津若松市街にも近い。鉄道なら磐越西線で向かえばいい。車での移動なら国道49号線を西へ30分ほど走れば着く。会津若松市街には鶴ヶ城をはじめ、飯盛山会津武家屋敷御薬園など、見所が多い。七日町通りなどを散策するのもお勧めだ。じっくりと時間をかけて会津若松を堪能したい。

車での移動なら裏磐梯も近い。桧原湖や五色沼など、こちらも見所が多い。

猪苗代湖と磐梯山
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