佳景探訪
田浦梅の里
神奈川県横須賀市に「田浦梅の里」という梅の名所がある。二千本を超える梅が咲く梅林は見応え充分。海を見下ろす眺望も素晴らしい。梅が見頃の二月の下旬、「田浦梅の里」を訪ねた。



田浦梅の里

田浦梅の里

田浦梅の里

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田浦梅の里

田浦梅の里
神奈川県横須賀市の北東部、田浦地区に「田浦梅の里」と呼ばれる梅の名所がある。二千本を超える梅が植えられた梅林は見応え充分。「かながわの花の名所100選」のひとつにも選ばれた、文字通りの「名所」である。丘の上の立地の梅林からは眼下に横須賀港を見下ろし、その眺望も素晴らしい。毎年、梅の見頃の時期になると多くの観梅客を迎えて賑わう。

田浦地区は丘陵地の尾根が幾筋も延び出し、その尾根筋に挟まれた谷戸とが複雑に入り組む地形を成している。JR横須賀線田浦駅前からそのまま南へ入り込んでゆくと、狭い谷戸に家々の立ち並ぶ田浦一丁目の町だ。この谷戸の西側、田浦郵便局前から南へ入り込む谷戸はちょうど田浦二丁目と三丁目との境に位置している。尾根と尾根とに挟まれ、小さな川に沿って家々が立ち並ぶ。この谷戸をさらに南へ入り込むと、京急本線の線路が見えてくる辺りで谷戸が二本に分かれる。その分かれた二本の谷戸に挟まれた尾根の上に、「田浦梅の里」がある。「田浦梅の里」の設けられた尾根は田浦泉町と田浦大作町とに跨がり、すなわち両町の境の尾根筋に当たっている。

「田浦梅の里」は、そもそもは1934年(昭和9年)、当時の皇太子明仁親王のご生誕を記念し、山の所有者である石川金蔵氏を中心にした地元の人たち36名によって梅林組合がつくられ、大六天神社の鎮座する田浦泉町の山林、六反歩(約6,000平方メートル)に700本の梅を植樹し、「田浦梅林」と称したことが始まりという。

1976年(昭和51年)、田浦在住で川村学園大学教授であった石川宏氏から「田浦梅林」周辺の山林緑地337,000平方メートルが横須賀市に寄付される。これを受け、市は周辺の山林をさらに購入、千本の梅を植栽するなどして、市制70周年記念事業として野外レクリエーション施設を整備、1982年(昭和57年)に「田浦緑地」として開園した。これによって田浦泉町に隣接する田浦大作町にも梅林が拡大、従来の「田浦梅林」と「田浦緑地」とを総称して「田浦梅の里」と呼ばれることになる。

現在、「田浦梅の里」は総面積40ヘクタールを超え、そこに約2,000本の梅が植えられている。三浦半島では唯一の梅林だという。二千本の梅が咲く光景は見事なもので、丘の上という立地は開放感に富み、海を見下ろす眺望と相俟って、まさに「名所」の形容に相応しい。


田浦梅の里

田浦梅の里

田浦梅の里

田浦梅の里

田浦梅の里

田浦梅の里

田浦梅の里

田浦梅の里

田浦梅の里
「田浦梅の里」には複数の入口があるが、やはり北端部から尾根の上に上がり、尾根道を辿って南へ入り込んでゆくのがいい。田浦泉町側(東側)の小径は樹林の中を曲がりくねった小径が辿っているが、田浦大作町側(西側)から上がる小径は視界の開けた斜面を辿り、爽快な気分の中で登って行ける。小径脇の斜面には梅が植栽され、「田浦梅の里」に訪れたことを実感する。場所によっては梅の木の向こうに京急線の線路を見下ろす。その興趣に富んだ風景は鉄道ファンならずとも見ておきたいものだ。

この田浦大作町側の小径は大六天神社の参道であるらしく、小径の途中には鳥居も建っている。その小径を上り詰めた先、「田浦梅の里」の北端部、尾根の端となった丘の上には大六天神社が祀られている。小さな社だが、丘の端に谷戸の家々を見守るように鎮座している。その傍らには「田浦梅林発祥之地」碑が建てられ、「田浦梅林」の由来を簡単に説明したパネルも設置されている。

大六天神社から尾根道を辿って少し南へ辿れば尾根の上に設けられた梅林だ。梅林は、おそらく尾根上の木々を取り払って場所を設け、そこに梅を植栽して造られたものなのだろう。造られた当初は素朴なものだったのだろうと思うが、今では梅林を縫うように散策路が巡り、四阿やベンチも設置されて“庭園”風に整備がなされている。尾根筋に設けられた梅林は、平坦に整地されているわけではなく、本来の起伏がそのままに残されているため、散策路を巡れば周囲の景観はさまざまに表情を変える。何しろ尾根の上だから場所によっては周囲に眺望が開け、その開放感も特筆すべきものと言っていい。

尾根道はさらに南へ延びる。南へ辿るほどに尾根は少しずつ高みを増し、振り返れば梅の木の向こうに東京湾を望める。その眺望が素晴らしい。尾根道の両脇には梅林が続く。どこまでが「田浦梅林」としてその歴史が始まったときの範囲なのか、後に増植したのがどの範囲なのか、現在の様相からは判然としない。

尾根道を辿って南へ進み、梅林を抜け出ると丘の上に設けられた広場だ。広場は周囲に視界が開け、北には東京湾を一望する。素晴らしい眺めだ。東や西には周辺の尾根が横たわり、その隙間、南には横浜横須賀道路の一部が見え隠れする。頭上には早春の青空が広がり、日の光が存分に降り注ぐ。この開放感に富んだ爽快さは特筆すべきもので、この広場でのひとときを過ごすために「田浦梅の里」を訪れても、決して後悔することはないと言っていい。

広場の一角に「田浦緑地」の由来を記した碑が建てられている。「昭和六十一年三月吉日 横須賀市長 横山和夫」の名で、石川宏氏から寄付された山林を中心に整備された旨が記されている。碑の表には、詩人でもあった石川宏氏による詩が刻まれている。訪れたときには目を通しておきたい。

尾根上の広場は南に行くほど高みとなり、そこにさらに展望塔が設けられている。展望塔に登れば視界はさらに広がり、眼下に尾根上の広場を見下ろし、その向こうに横たわる東京湾を一望する。横須賀の港湾風景はもちろん、北に目を凝らせば遠く横浜のランドマークタワーやベイブリッジの姿を見つけることもできる。東に目を向ければ対岸には房総半島、富津付近の海岸が見えている。南から西を振り返れば、三浦半島の丘陵群が緑濃く重畳する。まさに絶景である。「田浦梅の里」を訪れたなら、必ずこの展望塔からの眺望を楽しんでおかなくてはならない。

広場の東側、斜面を少し降りたところにはフィールドアスレッチッック風の遊具が数基設けられている。それぞれに工夫を凝らした遊具で、子どもたちの人気を集めている。家族連れで訪れても、子どもたちにも充分満足してもらえるだろう。

展望塔の脇を通り抜けてさらに尾根道を南へと辿ってゆくと、「田浦青少年自然の家」へ至る。「田浦青少年自然の家」はキャンプ場を備え、子どもたちの野外活動のための拠点となる施設だ。「田浦青少年自然の家」を目指して「田浦梅の里」を通り抜けてゆく人たちもあるようだ。展望塔から「田浦青少年自然の家」へと至る道の途中、尾根の西斜面に植えられた梅がよく見える。その眺めも楽しんでおこう。


田浦梅の里

田浦梅の里

田浦梅の里
「田浦梅の里」は、その名の通り、梅の名所として知られ、梅の花が見頃を迎える時期にはぜひとも訪れたい、魅力あるところだと言っていい。しかしその魅力は“梅の名所”であることだけにとどまらない。

梅林の散策路脇には水仙が植えられ、その数は75,000株を数えるという。観梅に訪れたときも名残のように花を咲かせる水仙を見つけることができるが、やはり梅に先立つ晩冬から早春にかけてが見頃だろう。水仙を目当てに「田浦梅の里」を訪れてみるのもいい。

そして何と言っても「田浦梅の里」の魅力は、丘の上の爽快な開放感と眺望だ。その魅力は季節を選ばない。春や秋の行楽シーズンにお弁当を持ってピクニック感覚で訪れてみるのもお勧めだろう。丘を吹き渡る風を感じながら、東京湾を眺めて過ごすランチタイムは日々を喧噪を忘れさせてくれるひとときだ。行楽地として充分な魅力を備えた「田浦梅の里」である。




田浦の町

田浦の町

田浦の町
町歩きの好きな人なら、「田浦梅の里」周辺の町歩きを楽しむのもお勧めだ。田浦二丁目から三丁目の町は、尾根と尾根とに挟まれた谷戸地に横たわっている。そこにひしめくように家々が立ち並んで興趣に満ちた佇まいを見せる。谷戸の中央部には小さな川が流れている。川は“大きな溝”のような姿だが、その両岸に家々が迫る様子も独特の風情である。そんな町の空気を感じながら、のんびりと散策を楽しむのがお勧めだ。

南に奥まって「田浦梅の里」に近いところでは、大六天神社下の斜面の梅林がよく見え、その下を走り抜ける京急本線との競演も楽しむことができる。鉄道ファンならぜひ見ておきたい(写真に捉えておきたい)風景に違いない。
参考情報
交通

「田浦梅の里」へはJR横須賀線田浦駅から徒歩で20分ほどだ。田浦駅から真っ直ぐに南へ辿ると、尾根筋をひとつ越えなくてはならない。田浦駅から国道16号のトンネルをくぐっていったん西へ辿り、田浦郵便局前から南へ入り込んでゆくのがわかりやすいだろう。京急線を利用する場合は京急田浦駅から安浦2丁目行のバスを利用し、「田浦郵便局」バス停で下車、徒歩15分ほどだ。

「田浦梅の里」には来園者用駐車場は無く、周辺にも民間駐車場がほとんど無いため、車での来園はほぼ不可能と言っていい。どうしても車で訪れたい場合は横須賀市中心部の民間駐車場に車を駐め、JR横須賀線を利用して横須賀駅から田浦駅へ電車で移動、田浦駅から徒歩で「田浦梅の里」へ向かう方法をお勧めする。

飲食

「田浦梅の里」には売店やレストランなどはない。周辺にも飲食店はほとんどない。来園する際はお弁当とレジャーシートを持参することをお勧めする。飲食店を探す場合は、横須賀市中心部へ移動するのが賢明だ。

周辺

JR横須賀線田浦駅は両側にトンネルが迫っている。西側(大船側)は田浦トンネル、東側(横須賀側)は七釜トンネル、どちらも明治大正期に造られたものだ。鉄道ファンでなくても、田浦駅を利用する際にはぜひ見ておきたい。

田浦駅前からそのまま田浦一丁目の町へ入り込んでゆくと、ループを描く道路が造られたところがある。「のの字橋」として知られるところで、ループの中は「田浦1丁目公園」という小公園になっている。なかなか面白い景観だ。

JR横須賀線を使って田浦駅から一駅で横須賀駅どぶ板通りヴェルニー公園、三笠公園など、中心部の名所を訪ねてみるのもお勧めだ。
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