東京都青梅市新町の西部、大井戸公園の中に「青梅新町の大井戸」と呼ばれる「まいまいず井戸」が残っている。この形状の井戸としては日本有数の規模という。秋の気配が漂う九月の半ば、「青梅新町の大井戸」を訪ねた。
青梅新町の大井戸
東京都青梅市の東端部に位置する新町の西部に大井戸公園という小公園がある。この公園には「青梅新町の大井戸」と呼ばれる、古い時代の井戸が残されている。地面にすり鉢状に大きな穴を掘り、その穴の底に筒井戸を掘ったもので、いわゆる「まいまいず井戸」と呼ばれるものだ。この井戸は室町から安土桃山にかけての時代に掘削され、18世紀中頃までは使われていたらしいが、その後、何らかの原因で埋没してしまった。1990年代になって発掘調査が行われ、その結果を基に復元整備されたものが現在の「青梅新町の大井戸」である。
青梅新町の大井戸
青梅市新町の辺りは武蔵野台地の西端部に位置している。武蔵野台地は砂礫層の上に関東ローム層が堆積した脆い地層だったため、昔の土木技術では地表から筒井戸を掘り下げることが難しかった。そこで、まず地面にすり鉢状に大きな穴を掘り、その底から垂直に井戸を掘って地下水脈に至るという工法を採ったわけだ。すり鉢状の穴の斜面には底面に降りるための小径が渦巻き状に造られてるのが通例で、その形状がカタツムリの殻を思わせることから、「まいまいず井戸」と呼ばれる。「まいまい」とはカタツムリのことだ。
青梅新町の大井戸
青梅新町の大井戸
「青梅新町の大井戸」は、その「まいまいず井戸」の特徴がよく分かる井戸だ。地表部は南北33m、東西22m、開口部が盛り土で囲まれているのは雨水の浸入を防ぐためだろう。窪地の底は南北に長い長方形で、深さは約7mだ。窪地の底の井戸の周りが広くとられているは作業に用いるためか。窪地の斜面には底に降りるための小径が辿っている。この形状の井戸としては最大規模のもののひとつだという。

「青梅新町の大井戸」がそもそもいつ頃掘削されたものかはよくわかっていない。井戸の底からは南北朝から室町時代にかけての時代に属する板碑片も出土しているというから、羽村市の「五ノ神社まいまいず井戸」と同様、鎌倉時代頃に掘られたものかもしれない。いずれにしても脆い武蔵野台地の地表面から筒形の井戸を掘り下げる技術の無かった頃の井戸である。
青梅新町の大井戸
青梅新町の大井戸
青梅市新町の辺りは1611年(慶長16年)に吉野織部之助らによる新田開発が始まっている。開村の際にこの井戸も大規模な改修を受け、塩野家の井戸として1700年代初期まで使われていたらしい。その後、何からの原因で井戸は埋没、窪地には草木が茂って荒廃し、“井戸があった”との口承だけが残ったようである。

井戸の存在を確認するための調査が行われたのは1988年(昭和63年)のことだ。1991年(平成3年)からは発掘調査が行われ、その結果を受けて1997年(平成9年)から青梅市が復元整備を行い、一般公開となったものが現在の「青梅新町の大井戸」である。

ちなみに現地に設けられた解説パネルには「大井戸」に「おいど」のふりがなが付加されている。「おおいど」が「おいど」に転じたものか。
青梅新町の大井戸
「青梅新町の大井戸」は大井戸公園という公園の中に区画を設けて残されている。東京都指定史跡である。文化財保護のため、公開時間が決められており、夜間は立ち入り禁止だ。入り口から中に入って斜面に設けられた小径を下って窪地の底に降りると、「大井戸」の大きさを実感する。案外その深さを感じないが、それも開口部の広さ故だろう。井戸の傍らに立って、かつて古い時代に人々が井戸から水を汲んでいた光景を思い浮かべるのも一興である。
青梅新町の大井戸
大井戸公園は8000平方メートルほどの公園で、北側には広場が、南東側に「青梅新町の大井戸」、南西側にはぼたん園が設けられている。近隣に暮らす人たちの日常的な憩いの場として親しまれている公園だ。

中央部西側には親水施設が設けられており、夏には稼働し、水遊びを楽しむ子どもたちの歓声が響くようである。この親水施設は渦巻き模様のモチーフで造られているが、「まいまいず井戸」に因んだものだろう。
青梅新町の大井戸
「青梅新町の大井戸」は誰にでもお勧めできるような“観光名所”というわけではないが、「まいまいず井戸」と呼ばれる形状の井戸として最大規模のもので、興味のある人ならぜひ一度は見ておきたいものだ。近隣には羽村市の「五ノ神社まいまいず井戸」やあきる野市の「渕上の石積井戸」などがある。これらの井戸も併せて見ておきたい。今も残る中世の井戸の遺構に、古い時代の暮らしのひとこまを想像してみるのも楽しいひとときである。
青梅新町の大井戸
青梅新町の大井戸
青梅新町の大井戸
参考情報
交通
鉄道で訪れる場合は、JR青梅線小作駅が最寄りだ。駅から約1.7km、30分ほど歩けば着く。小作駅からバスに乗り、「霞町新町」バス停で下車すると近い。

大井戸公園に来園者用駐車場が設けられているので車での来訪も可能だ。ただし大井戸公園の駐車場は6台分のスペースしかない。大井戸公園駐車場が満車の場合は、南西に数百メートル離れた旧吉野家住宅の駐車場も利用可能とのことだ。

遠方から車で訪れる場合は圏央道青梅ICを利用すれば近い。青梅ICから2kmほどだ。

飲食
大井戸公園周辺には飲食店はない。飲食店を探すならJR青梅線河辺駅周辺に移動するのが賢明だ。

周辺
大井戸公園の北側には道路を挟んで御嶽神社が隣接している。新町が開拓された際に建立された神社だ。「青梅新町の大井戸」見学と併せて参拝していこう。

大井戸公園の南西、数百メートル離れたところに旧吉野家住宅がある。現在の新町を開拓し、代々名主を務めた吉野家の旧宅だ。古民家に興味のある人は訪ねてみよう。

大井戸公園から東へ800mほど辿ったところには富士塚公園がある。古い時代に築かれた富士塚が今も残っている。興味のある人は訪ねてみるといい。
水景散歩
東京多摩散歩