日南市南郷町谷之口地区の北東部、南郷川右岸に広がる水田地帯の中を日南線の線路が真っ直ぐに延びるところがある。その途中、農道が線路を跨いだ踏切が二ヶ所ある。東寄りの踏切は荒武踏切、西寄りの踏切が、この岩山踏切である。双方とも車一台が通れるほどの幅しかない農道だが、荒武踏切に警報機と遮断機が設置されているのに対し、岩山踏切には設置されていない。踏切があることを示す踏切警標、いわゆるクロスマークが設置されているのみである。

警報機も遮断機もなく、踏切警標のみが設置された踏切の佇まいが、広々とした水田の風景の中で興趣のある存在感を示している。南側から見れば水田の中を真っ直ぐに農道が延び、その先を横切る国道220号を行き交う車が小さく見える。その向こうには南郷川が流れているがここからは見えず、その向こうに山々が横たわる。北側から見ても真っ直ぐに農道が延び、その先には丘が横たわる。丘に植えられた杉の樹形が美しい。踏切脇に立てば、水田地帯の中を真っ直ぐに延びる線路の様子がよくわかる。その光景にも面白みがある。線路は水田地帯の中に盛り土をして、堤状になったところに敷設されているわけで、線路と周囲の田圃とが織り成す風景は見る場所によって表情を変える。訪れたのは八月初旬、周りの田圃はすでに稲刈りを終え、人の姿はない。踏切を渡ってゆく車も人もない。静かな夏の踏切である。

警報機も遮断機もない岩山踏切は、そのため通行には常に危険がつきまとう。日南線は便数も少なく、踏切周辺は視界が開けて見通しが良いが、そのために油断も生じるのだろう。希に、痛ましい事故が発生することがある。事故で亡くなられた方もある。事故で亡くなられた方々のご冥福を祈りつつ、今後の安全を願ってやまない。