北郷駅を出て南へ向かう日南線は広渡川の河岸に沿って走る。やがて川から離れ、水田の広がる中を抜けると内之田駅に到着する。周辺は「内之田」の名が示すように山々に囲まれた中に水田が広がり、その中を線路が真っ直ぐに延びている。周辺の水田は早期作だから八月になるとすべて刈り取りを終えていて、少々殺風景な景観を見せている。
のどかな田園風景の中にぽつりと駅がある。駅周辺にはわずかに民家が点在するだけで、「駅前」としての佇まいは「内之田駅前」のバス停があることだけかもしれない。駅前には駐車スペースと自転車置き場があるが、駅舎はない。自転車置き場の横の階段を上がるとホームだ。ホームには簡素な屋根付きのベンチが置かれている。ホームに立つと、真っ直ぐに延びる線路の向こうに山々の稜線が少し霞んで見える。
内之田駅のある辺りは北郷町の南端部に位置し、南には日南市との境が近い。内之田駅から南へ向かう日南線はすぐに小さなトンネルを抜けて日南市へと入り、大きく蛇行した広渡川に寄り添うように走る。やがて川から離れると西へ曲がって再びトンネルを抜け、酒谷川を越えて飫肥の駅へと入ってゆく。
上りの列車が出発した後の内之田駅に人の姿はない。駅前にも、周辺にも、やはり人の姿はない。駅前の道路にも通り過ぎてゆく車がない。少し離れた水田脇の農道で、農作業をする人の姿がある。周囲の風景の中に動くものと言えば、それだけだ。夏の日差しと蝉の声だけに満たされて、駅は少し違った時の流れの中に横たわっているようにも感じられる。夏の午後、ホームに落ちる駅名標の影が少しずつ伸びてゆく。