日南海岸風景
鶯巣
鶯巣
宮崎市街から国道220号を辿って南下し、やがているか岬を過ぎると市境を越えて日南市だ。いるか岬を回り込んだところに小さな漁港を抱えた集落がある。鶯巣の集落だ。「鶯巣」は「おうさ」と読む。余談だが、「鶯巣」と書く地名は長野県にもある。JR飯田線に「鶯巣駅」があるから、長野県の「鶯巣」の方は全国的にもよく知られているに違いない。長野県の「鶯巣」は「うぐす」と読む。

鶯巣は現在でも日南市最北の集落だが、江戸時代には飫肥藩城付地の北端に当たり、ここを通る鵜戸街道には関所が置かれていた。日南市教育委員会の解説に依ると、鶯巣番所以南は飫肥藩城付地に属し、以北は飫肥藩清武地頭が管轄していた。1714年(正徳4年)頃の鶯巣地区には足軽10名が配置されており、旅人の手形改めの他、専売品の出入りなどを監視していたという。「日向地誌」に依れば1867年(慶応3年)に、「三浦家文書」に依れば1871年(明治4年)に、番所は廃止されたそうだ。

鵜戸街道はまた、内海から鵜戸神宮へ至る参詣の道でもあった。「日向七浦七峠」と呼ばれた厳しい道程だったという。鶯巣峠と鶯巣浦はそれぞれ「日向七浦七峠」のひとつだ。鵜戸参詣の人々は小内海の浦から鶯巣峠を越えて鶯巣浦へと至り、さらに伊比井峠を越えて伊比井の浦へと辿った。今では海岸沿いの国道が整備され、鵜戸参りも気軽だが、浦を抱く山々を眺めながら先人たちの旅の厳しさに思いを馳せるのも一興かもしれない。
鶯巣
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鶯巣は小さな集落だ。鶯巣川の河口部のわずかな平地に十軒ほどの民家が寄り添うように建っている。海岸沿いの国道から山間へと分け入って行く細道がある。道脇の民家の石組みが良い風情だ。出歩く人の姿はないが、どこからか人の話し声が聞こえてくる。夏の午後、朝の漁を終えて、今は暑さを避けて休んでいるのだろう。
鶯巣
細道を進んで行くと道脇の山裾に小さなお社がある。鶯巣の集落の鎮守なのだろう。素朴な佇まいに心惹かれる。境内には日南市の「郷土の名木」に指定されたクロガネモチの木がある。詳しい説明は設置されておらず樹齢などはよくわからないが、なかなか立派なクロガネモチだ。
鶯巣
細道をさらに進むと鶯巣川を越える。道脇に六体のお地蔵様が佇んでおられる。各所に点在していたものをここにまとめたものかもしれない。お地蔵様は彫られたものもあるが、線を刻んで描かれただけのものもある。どのお地蔵様も素朴な表情が素敵だ。中には割れたものもあるが、丁寧に修繕を施して祀られている。せっかくだからお参りしてゆこう。
鶯巣 鶯巣
さらに奥へと進んで行くと目の前を日南線の線路が跨いでいる。その少し先で、細道も鶯巣川を越える。路面が鉄板で補強されているが、おそらく木造の橋なのだろう。木製の欄干が古さを感じさせる。道はさらに山深くへ続いているが、そろそろこの辺りで引き返すことにしよう。
鶯巣
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鶯巣漁港は小さな漁港だが、日南漁協の一翼を担い、イセエビやウニ、日南特産の「ムカデノリ」と呼ばれる海藻などの漁獲が主流だ。夏の午後の漁港は静かなものだ。波の無い穏やかな港湾内に漁船が浮かんで夏の日差しを浴びている。青緑をした海の上に白い漁船が浮かび、その上に真っ青な夏空が広がる。周囲には緑濃い山々が横たわっている。その色彩のコントラストがとても美しい。朝の漁が終われば港には人の姿もあまりなく、ひっそりとした中でゆったりと時間が流れている。
鶯巣
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鶯巣の集落には特に「観光名所」のようなものはない。かつて鶯巣の番所があったことも、特に歴史好きの人でなければあまり興味を持てないものだろう。しかし小さな集落ならではの閑寂な佇まいはなかなか魅力的で、ひととき散策を楽しむのも悪くない。日々の喧噪を忘れ、ゆったりとした時の流れの中に身を置くのも楽しいものだ。
鶯巣
INFORMATION
鶯巣
【所】日南市大字伊比井
【問】日南市観光協会
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ページ内の写真は2008年夏に撮影したものです。本文は2010年2月に改稿しました。