日南海岸風景
都井岬
都井岬
都井岬は宮崎県最南端の岬だ。根元がくびれた半島のような形で海に突き出し、まさに「地の果て」のような印象がある。その突端の高みから見る太平洋の景観は雄大そのものだ。都井岬は「御崎馬」の名で呼ばれる日本在来種の野生馬がいることで広く知られている。また蘇鉄自生地の北限としても知られる。目も眩むばかりの断崖に蘇鉄が茂り、その中に御崎神社が鎮座する風景も壮大なものだ。日南海岸観光の際に決して欠かすことのできない場所のひとつと言えるだろう。
都井岬
日南市から海岸に沿った国道を南下し、やがて恋ヶ浦を過ぎて宮ノ浦の集落の傍らを過ぎると、道路は海岸から離れて山間の峠へと登ってゆく。国道448号はそのまま峠を越えて都井の集落へと降りて北西へと延び、やがて串間市街へ至っているが、峠から県道36号が南へ延びて都井岬へ向かっている。

国道から県道へと逸れて都井岬へ辿ると、1.5kmほどで「駒止の門」がある。文字通り、御崎馬を生息地に囲うことが目的のもので、「入園ゲート」ではない。「駒止の門」を通過する際には少々の料金を支払う必要があるが、これもあくまで御崎馬保護や都井岬整備のための「協力金」であって「入園料」ではないのだが、実際には「入園ゲート」と「入園料」のように感じられてしまうかもしれない。

「駒止の門」を過ぎると、丘の上に御崎馬の姿を見つけることができるかもしれない。「駒止の門」を過ぎればすでに御崎馬の生息地であるから、馬は丘の上から道路まで人間の都合など考えずに闊歩している。カーブを過ぎると突然目の前に馬がいた、などということもあるから、運転の際にはくれぐれも注意が必要だ。またカーブの多い道路はちょっとした脇見運転が命取りになる。御崎馬の姿を見つけてゆっくりと見学したい時には、安全な場所に車を停車させてからにしたい。
都井岬
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「駒止の門」を過ぎて1kmほどで、小松ヶ丘の駐車場に着く。道路の東側、こんもりとした草はらの丘が「小松ヶ丘」である。小松ヶ丘は御崎馬の姿を高い確率で見ることのできる場所として、そしてまた丘上からの爽快な眺望が素晴らしく、都井岬の中でも特に人気を集めるスポットだ。

小松ヶ丘には自由に登って散策を楽しむことができる。道路から上がる部分には辛うじて人の歩ける小径があるが、丘には基本的に道はない。御崎馬が草を食みながら斜面に沿って移動するときにできた小径らしいものはあるが、観光客用の遊歩道は整備されていない。丘に登るときにはくれぐれも足元に注意されたい。

運が良ければ丘のあちこちで御崎馬の姿を見ることができる。御崎馬は日本在来種の野生馬として国の天然記念物にも指定されており、全国的によく知られている。そもそもは江戸時代に高鍋藩秋月家が藩馬を育てるためにこの地に放牧したものだが、当初からほとんど人手が加えられず、馬たちは野生に近い状態で繁殖を繰り返した。廃藩後の明治期になって御崎馬組合に管理の手は移ったが、その粗放な飼い方は変わらず、野生に近い生態を維持してきた。それが「都井岬の野生馬」と知られる御崎馬である。

御崎馬はそれほど人を恐れることはない(馬にとっては人間はカラスなどと同じような存在なのではないかという)ので、数メートルの距離まで近寄ることも可能だが、あくまで野生馬なので近寄りすぎては危険だ(威嚇されることもある)。特に馬の後ろから近寄ってはいけない。つい今し方まで静かに草を食んでいた馬が急に走り出したりすることもあるので、注意が必要だ。また馬の近くで大声を出さない、急に大きな動作をしないといったことにも注意したい。馬に触れたり、食べ物を与えたりするのも、もちろんダメだ。そうした注意事項を守れば、御崎馬は自然のままの姿を見せてくれるだろう。

小松ヶ丘の頂上部分からは周囲360°に眺望が広がる。爽快な眺めである。その眺望の中に御崎馬の姿が加わる。まさに“絵になる”景観だ。その絶景をぜひ堪能しておきたい。
都井岬/御崎馬
都井岬/御崎馬
都井岬/御崎馬
都井岬/御崎馬
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小松ヶ丘の駐車場からさらに2kmほど辿ったところ、道路から一段高くなった場所に「都井岬観光交流館パカラパカ(PAKALAPAKA)」が設けられている。2020年(令和2年)4月1日にオープンした施設で、観光案内所と休憩施設を兼ねている。地場物産の販売もあり、軽食コーナーも併設しているから休憩やランチタイムにも利用できる。都井岬観光に際にはぜひ立ち寄っておきたい。

PAKALAPAKAの周辺は道路脇に広場などが設けられており、駐車スペースも充分にある。散策して眺望を楽しむのもお勧めだ。南に海を見下ろす広場は爽快な開放感がある。椰子や蘇鉄などの樹木が南国情緒を盛り上げる。東には岬突端付近の高みに建つ都井岬灯台の姿が小さく見える。西南の方角、海の向こうにうっすらと見えるシルエットは鹿児島県の大隅半島だ。運が良ければ、この広場で御崎馬と出会うこともできるだろう。

この一角にはかつて都井岬観光ホテルが建っていた。宮崎交通の資本による都井岬観光ホテルは宮崎が“新婚旅行ブーム”に沸いた1960年代から長く都井岬の観光拠点の役割を担ってきた。しかし時代と共に観光客は減少、経営は悪化の一途を辿った。そしてついに2010年(平成22年)2月で経営会社が撤退、事実上閉館した。危機感を募らせた地元商工会議所は経営会社から施設の1階と2階部分を借り受け、「岬の駅 都井岬」として同年4月末から営業を開始した。「岬の駅 都井岬」は1階部分が土産物などを販売する売店で、2階は地穫れの魚などを使ったメニューを提供するレストランになっていた。しかし、この「岬の駅 都井岬」も2013年(平成25年)2月で営業終了、2017年(平成29年)には旧都井岬観光ホテルの建物が取り壊され、現在はその名残もない。PAKALAPAKA前から少し進んだところには「都井岬ビジターセンター うまの館」があったが、これもPAKALAPAKAの開館に併せて2020年(令和2年)3月で閉館している。
都井岬観光交流館パカラパカ
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PAKALAPAKA前からカーブを廻って降りてゆき、三叉路となった交差点を右(東)に逸れて道を下っていくと蘇鉄自生地として知られる海岸へと着く。PAKALAPAKA前から2km弱の距離だ。道路が行き止まりになったところの駐車場に車を置き、そこから徒歩で蘇鉄の林の中の散策路を辿って降りていけば、やがて海を見下ろす崖の上に出る。眼下の磯辺に波が打ち寄せ、眼前には海原が広がる。左手には断崖がそびえ立ち、そこへ張り付くように茂る蘇鉄や、崖の中ほどに鎮座する御崎神社の姿はなかなか迫力のある景観だ。訪れる人は少ないようだが、都井岬観光の際にはぜひ立ち寄っておきたい。
都井岬/御崎神社周辺
都井岬/御崎神社周辺
都井岬/御崎神社周辺
都井岬/御崎神社周辺
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PAKALAPAKA前から御崎神社へ逸れる三叉路を過ぎてさらに道路を辿ると、やがて灯台の建つ岬突端部分へと着く。PAKALAPAKA前から約2km。駐車場が設けられて、道路はそこで終わる。駐車場は周囲に視界が開けて爽快だ。駐車場に車を置き、さらに岬突端部分を目指せば灯台へと至る。

灯台の敷地内へ入るには規定の観覧料金が必要だが、ぜひ入場して灯台を見学しておきたい。灯台は内部に入って見学することができる。また灯台横手には展望台も設けられており、壮観な眺めが楽しめる。展望台から周囲を見渡すと、そのほぼすべてを海原が取り巻いているように感じられる。ふりかえるように西に目を向けるとさきほど通り過ぎてきたPAKALAPAKAの建物が建つ一角は遠く小さく眼下に見える。その向こうに霞んで見えるシルエットは鹿児島県の大隅半島だ。ここからの景色はまさに「絶景」と言えるものではないかと思える。
都井岬灯台
都井岬灯台
都井岬灯台
都井岬灯台
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都井岬は遠い。宮崎市街から車を走らせると約2時間を要する。宮崎観光に訪れた人の中には、その距離のために敬遠する人もあるのかもしれない。しかし、少々遠さを感じる道程だからこそ、岬突端の高みに立った時の、まさに「地の果て」に来たような感覚は感動すら感じるものではないかと思える。灯台付近からの壮観な景観、天然記念物に指定された蘇鉄自生地や御崎馬など、都井岬で見るものは多く、「日南海岸」の観光名所のひとつとしての名に恥じない。
都井岬
INFORMATION
都井岬
【所】串間市大字大納
【問】串間市観光物産協会
このWEBページは「日南海岸散歩」内「日南海岸風景」カテゴリーのコンテンツです。
ページ内の写真は2020年夏に撮影したものです。本文は2021年4月に改稿しました。