横浜線沿線散歩公園探訪
横浜市中区山手町
山手イタリア山庭園
Visited in May 2003
山手イタリア山庭園
根岸線石川町駅の南口から元町方面へと出ると、駅のすぐ脇を南側の丘へ上る坂道がある。大丸谷坂という。大丸谷坂を上がると、横浜の市街地を見下ろす丘の上に出る。ちょうど根岸線のトンネルの上にあたる。この丘の上に「山手イタリア山庭園」がある。1880年(明治13年)から1886年(明治19年)にかけてこの場所にイタリア領事館があったことから、「イタリア山」と呼ばれるようになり、公園の名の由来となった。「山手イタリア山庭園」はその名のように西洋庭園風に仕立てられており、またその敷地内には「外交官の家」や「ブラフ18番館」などの洋館も移築され、横浜山手観光には欠かせない場所のひとつとして多くの観光客を集めている。
外交官の家
大丸谷坂を登りきり、あるいは山手本通りから「山手イタリア山庭園」を指し示す標識に従って進むと、「山手イタリア山庭園」の正面ゲートがある。ゲートの奧には端正な芝生の庭があり、その向こうに「外交官の家」が建っている。まるで古い時代の広いお屋敷のような佇まいだ。ゲートはそのままお屋敷の門であり、「山手イタリア山庭園」を示すプレートは表札を思わせる。

庭の中を散策路が辿っている。季節柄、花壇にはバラの咲く姿があり、植え込みのサツキも今が花の盛りのようだ。「外交官の家」の、向かって左手に、管理事務所や喫茶室の設けられた建物が併設されている。洋館への入館口もそこに設けられ、観光客らしき人たちの出入りする姿がある。
山手イタリア山庭園

外交官の家」は明治から大正にかけての外交官だった内田定槌の私邸として建てられたもので、渋谷区にあったものをここに移築したものだ。アメリカ人ガーディナーの設計によるという「アメリカン・ビクトリア様式」の建物は「山手イタリア山庭園」によく似合って馴染んでいるように見える。内部も無料で見学することができ、室内の佇まいや家具、調度品の様子などから明治期の外交官の暮らしぶりを思い描くのも楽しい。
庭園
「外交官の家」の北側に一段下がって、「山手イタリア山庭園」のメインとも言える洋風庭園が横たわっている。幾何学的なデザインの庭園を花壇の花々が彩る様子はとても美しい。中央には水路があり、それを取り囲むように花壇が配されている。水路を中心としたシンメトリックなデザインの美しさは、洋風庭園の醍醐味といったところだろうか。

庭園内から南側を見ると、一段高くなって「外交官の家」の姿がある。庭園と洋館の組み合わせは実に風情があり、まさに「絵になる」美しさだ。この角度で見る庭園の景観は、まさに「山手イタリア山庭園」を代表するものとしてさまざまなところで目にするが、それも無理のないことだと思える。庭園内のあちらこちらでその姿を写真に収めようとカメラのレンズを向ける人やキャンバスの上に絵筆を走らせる人の姿がある。
山手イタリア山庭園

庭園は根岸線の線路を見下ろす崖の上に位置し、そこからは北方へ視界が開けて横浜市街の眺望が広がっている。残念ながら視界のほとんどを占めるのはビルの建ち並ぶ市街地の景色だが、その向こうにみなとみらいの高層ビル群の姿などを見ることができるのは楽しく、何よりその開放感に溢れた雰囲気がいい。庭園内には随所にベンチが置かれ、のんびりとくつろぐ人の姿も多い。
ブラフ18番館
洋風庭園の東側にさらに一段下がって「ブラフ18番館」の建つ一角がある。「ブラフ18番館」は関東大震災後に外国人住宅として建てられ、戦後はカトリック山手教会の司祭館として使用されてきたものを移築したものだ。大正期の外国人住宅の特徴を残した建築ということだが、木立に包まれて建つ姿はどこか可愛らしい印象もあって魅力的だ。こちらも内部を無料で見学することができ、かつて元町で製作されていた「西洋家具」を復元したものや、横浜山手の歴史資料も見ることができる。「ブラフ18番館」の横手にはホールが併設され、市民による各種のイベントが行われていることも多い。

ブラフ18番館」の周囲は緑に覆われ、「外交官の家」周辺の開放感溢れる雰囲気とは少々趣が違っている。林の中にひっそりと建つ童話の世界の家のような佇まいさえ感じさせて、木陰のベンチなどでひとときのんびりと過ごすのも楽しい。庭の北東側の角には横浜市街を見下ろす展望デッキが設けられ、そこからは市街地に向こうにマリンタワーの姿を見ることもできる。
山手イタリア山庭園

根岸線石川町駅から大丸谷坂を登ってくると、「山手イタリア山庭園」への「裏口」があるが、そこからはいると「ブラフ18番館」の裏手へと入ってくる。そのために「ブラフ18番館」側から「山手イタリア山庭園」に訪れる人も少なくないだろう。その際にはおそらく「ブラフ18番館」を見学して西洋庭園の方へと辿り、最後に「外交官の家」を見学するというルートになるのではないかと思うが、それもまた魅力的な楽しみ方であるような気がする。
メタセコイア並木のプロムナード
「山手イタリア山庭園」は、「庭園」の名が意味するように、開放感溢れる「公園」というよりは、丘の上に立つ広いお屋敷の敷地であるかのような佇まいを見せる。「外交官の家」や「ブラフ18番館」などの洋館が敷地内に建つことも、そのような印象を与えてくれるのだろう。「外交官の家」と「ブラフ18番館」の間を南北に抜けるメタセコイア並木のプロムナードの佇まいも魅力的で、メタセコイアの間に見える「外交官の家」の姿にも良い風情がある。

外交官の家」には喫茶室も併設されており、散策途中の一休みにいい。美しい庭園の景観を眺めながらお茶を楽しむひとときはなかなか素敵なものではないかと思える。山手地区に残る洋館群の中ではここだけが少し離れているが、横浜山手観光の際には欠かすことのできない場所のひとつと言ってよいだろう。
山手イタリア山庭園