横浜線沿線散歩街角散歩
横浜市青葉区市ヶ尾町〜川崎市麻生区下麻生
鶴見川河畔
(市ヶ尾〜下麻生)
Visited in June 2004
鶴見川河畔
すっかり夏めいて暑くなった六月のはじめ、鶴見川の河岸を歩いた。今回は横浜線から東急田園都市線に乗り換えて市が尾駅まで行き、市が尾駅から鶴見川の河畔へ出て、上流側へと辿るというコースを選んでみた。どこまで歩くかは決めておかず、気の向くままに行けるところまで歩いてみようという予定だった。
市が尾駅東口前
東急田園都市線市が尾駅を東口へ出た。西口は昔から幾度か利用したことがあったのだが、東口はあまり馴染みがなかった。東口にも商店が並び、「市ヶ尾東口商栄会」を成し、なかなか繁華な佇まいだ。線路に平行に伸びる道路沿いにさまざまな商店が並んでいる。道路は南へ向かって緩やかな下り坂で、それを降りきると広く整備された「横浜上麻生道路」へ出る。丁字路の交差点には「市ヶ尾変電所前」という名がある。「横浜上麻生道路」を少し西へ進み、東急線の線路をくぐると南側へ入り込む道があり、そこを進むとすぐに鶴見川の河岸だ。

以前、横浜線中山駅を起点に、鶴見川に沿って北八朔町の田園風景などを巡りながら市が尾駅まで歩いたことがあった。そのとき河岸を離れたのがちょうどこのあたりだったから、今回はその続きという意味合いもあった。細い人道橋も以前のままにあったが、今回はそれを渡らず、鶴見川の左岸をそのまま歩いてみたい。
バクの案内板
河岸の舗道沿いに、「バクの案内板」という名の、鶴見川の案内板があった。案内板には河口まで24km、源流まで18.5kmと記されている。この案内板は鶴見川の共通サインとして近年になって整備されているもののようで、以前は見たことがなかった。この案内板にも2002年3月設置と記されてある。案内板はここ以外にも河岸の随所に設けられており、鶴見川とその流域の全般的な案内、鶴見川で見られる生き物の紹介、周辺の名所旧跡の紹介など、その内容もなかなか充実している。こうした案内板が設置されていると、それだけで散策も楽しくなってくるから不思議だ。ちなみに「バクの案内板」の「バク」は動物のバクのことで、鶴見川の流域を俯瞰すると動物のバクを連想させる形になることに由来している。

河岸の紫陽花
河岸の舗道を歩くと、道沿いに紫陽花が美しく咲いているのに気づく。自生しているものではなく、植えられているもののようだ。「谷本川ふれあい花壇」との名がある。谷本川とはこの地域での鶴見川の本川を指す旧称だが、現在もこの名称を使う人は多い。「谷本川ふれあい花壇」は地元の有志の人々によって管理がなされているのだろう。「よこはま緑の推進団体 青葉区連絡会」の名でボランティア募集の案内があった。まだ六月の初めだが、すでに紫陽花はしっかりと咲いている。今年(2004年)はあらゆる花々の開花が早いような気がする。花に彩られた舗道というのは、やはり歩くのも楽しい。紫陽花を眺めながら歩く。
河岸の路
国道246号線をアンダーパスで過ぎ、さらに河岸を歩く。どこからか栗の花の匂いがする。見ると対岸に栗林がある。風に乗って匂いが届くのだろう。青葉区総合庁舎の裏手に、また「バクの案内板」があった。こちらの案内板には周辺の史跡などの紹介が記されており、市ヶ尾地蔵堂の案内などがあった。

やがて大場川の合流点だ。大場川はその名の通り、大場町の南部を南北に流れている。以前、市ヶ尾町から大場町にかけて歩いたとき、大場川の河岸を歩いた。上流端付近には「大場かやのき公園」がある。大場川は小さな川で、合流点付近でも「溝」のような有様だ。大場川との合流点の横に川間(かわま)橋がある。旧大山街道が鶴見川を越えている。この旧大山街道を東へ戻ってゆくと市ヶ尾地蔵堂がある。

市ヶ尾高校横
川間橋もアンダーパスで通り過ぎ、やがて市ヶ尾高校の横に至る。市ヶ尾高校横は河岸の舗道が美しく整備されている。舗道から河岸に降りて行けるように石段が設けられ、これは「市ヶ尾水辺の広場」というそうだが、残念ながらこの時にはまだ工事中のようだった。舗道脇に距離標があり、河口から25kmと記されている。

市ヶ尾高校横を過ぎると黒須田川との合流点だ。その傍らに、また「バクの案内板」があった。市ヶ尾高校周辺の見所が紹介されており、稲荷前古墳群や大場かやのき公園などの案内があった。そこから北方の眼を向けると、こんもりと木々の茂った丘が見える。稲荷前古墳群だ。稲荷前古墳群へは河岸からも遠くはないのだが、つい最近訪れたばかりだったので今回は立ち寄らずに河岸を辿ることにする。

黒須田川との合流点を過ぎると、左岸は鉄(くろがね)町、右岸は上谷本町だ。上谷本町は水田の広がるのどかな田園地帯で、その向こう、南方に柿の木台やみたけ台の住宅地が丘の上に広がっているのがよく見える。住宅が建ち並ぶ丘陵の中にこんもりと木々が茂ったところがあるが、位置から考えてもみたけ台公園の林だろう。四月に東急東横線青葉台駅から桜台やみたけ台の住宅地を巡って上谷本町の鶴見川河岸まで歩いたことがあった。その時には上谷本町の水田にレンゲの咲く風景を見つけることができたが、今はおそらく田植えの時期だろう。田植えの時期の上谷本町もまたのんびりと歩いてみたいという気がする。

宮前橋横にて
みたけ台公園の林が近くに見えるようになって、やがて宮前橋。みたけ台公園横を抜けてきた道路が鶴見川を越えて横浜上麻生道路へと繋がっている。宮前橋の人道橋を渡って左岸から右岸へと移った。橋の袂に「バクの案内板」がある。この案内板は2003年3月設置と記されている。宮前橋周辺の見所が紹介されており、稲荷前古墳群やみたけ台公園、たちばな台公園などの案内があった。

アオサギ
右岸の舗道をさらに上流川へ進む。やがて河岸に丘が迫り、木々の茂る一角があった。そのあたりを歩いているとき、ふと川面を見ると鳥の姿があった。どうやらアオサギのようだ。アオサギはしばらく川の中ほどに佇んでいたが、やがて下流へ飛び去ってしまった。

河岸の木々や竹林を見上げながらさらに上流川へと辿り、やがて右岸の視界が開けてくると鴨志田川が合流する。鴨志田川を渡ると鶴見川の右岸は鴨志田町で、すぐに環状4号が鶴見川を越える常磐橋だ。常磐橋の左岸側に「バクの案内板」があった。河口から27.0kmの表示がある。環状4号を通るバス路線を利用して帰路を辿ろうかとも思ったが、時間に余裕があり、もう少し上流川へと辿ることにした。
寺家町付近
常磐橋から少し歩くと、川崎市麻生区との市境に至る。ここからしばらくの間、鶴見川は川崎市麻生区と横浜市青葉区との市境にほぼ沿って流れている。というより鶴見川が市境となったということだろう。左岸は川崎市麻生区早野、右岸は「寺家ふるさと村」として有名な横浜市青葉区寺家町だ。やがて寺家橋に至る。寺家橋には「寺家」に「じげ」とのふりがながあった。「寺家」は「じけ」だが、かつては「じげ」であったのだろうか。ふと興味を覚えた。寺家橋に袂にも「バクの案内板」がある。河口から27.8kmと記され、寺家橋周辺の案内が記されている。

真福寺川合流点
寺家橋を過ぎてさらに上流側へと歩く。このあたりは以前に麻生川から鶴見川に沿って歩いたことがあった。以前と変わらないのどかな風景が広がっている。やがて真福寺川との合流点だ。地図を見ると、この真福寺川との合流点の辺りから市境が鶴見川の流れを離れて大きく南へ食い込んでいることがわかる。これはかつて鶴見川がそのように蛇行していたからで、昭和48年度から昭和51年度にかけての河川改修工事によって今のような真っ直ぐな流れに改められたものだ。このときに生じた旧河川敷地は恩廻(おんまわし)公園として整備されており、市境はこの公園に沿う形になっている。恩廻公園の北側は川崎市麻生区下麻生だが、南は横浜市青葉区寺家町の北端部にわずかに接して、西は町田市三輪町となる。
恩廻公園調節池
恩廻公園の西端部は鶴見川と麻生川との合流点に近い。この合流点近くの右岸に、何やら大がかりな設備がある。恩廻公園調節池というもので、大雨の際などに川の水量が増大したとき、洪水の被害を防止するために水を一時的に溜めておくための施設だ。見れば河岸が階段上に整備され、水量が増大するとそこから水が溢れて川から調節池に流れ込む構造であることがわかる。たったこれだけのスペースでどれだけの効果があるのだろうかと思うが、実は河岸の窪地は調節池の「入口」に過ぎず、「本体」は恩廻公園の地下に巨大な地下トンネルとして造られているのだという。地下トンネルは地下25メートルほどの深さに設けられ、約16メートルほどの内径で、長さは600メートルほど、貯留容量は約11万立方メートルだということだが、どれほどの規模なのか正直に言ってあまり実感がない。

恩廻公園調節池
この恩廻公園調節池は平成15年度に完成し、2003年(平成15年)6月に完成式典が行われたようだ。以前この辺りを歩いたのは2001年のことだったから、その時にはまだ工事中だったわけだ。そのとき、この辺りにさしかかるとダンプなどの工事用車両が多く行き交っていたのだが、この恩廻公園調節池の工事だったのだろう。恩廻公園調節池の河岸の施設は公園のように整備され、中央の窪地も普段は降りてゆくこともできる。傍らに立つ管理棟は展示室も設けられ、無料で開放されている。展示室は恩廻公園調節池の説明の他に、鶴見川で見られる生き物の紹介なども行っており、立ち寄って見学するのも楽しい。恩廻公園調節池についてのパンフレットもあるから興味のある人は貰っておくとよいだろう。
河川管理境界標
恩廻公園調節池から上流へ向かうと、都県境を越えて町田市だ。河岸には河川管理境界を示す標識が立ち、下流側には「神奈川県川崎治水事務所」、上流側には「東京都南多摩東部建設事務所」の名が記されている。さらに河岸を歩いて鶴川を目指すのも悪くはないが、今回はこの「河川管理境界」を区切りとして、そろそろ帰路を辿ることにしよう。ここから鶴見川と麻生川を渡って北へ行くとすぐに横浜上麻生道路へ出て、「東京田中短期大学入口」バス停が近い。ここから柿生駅行きのバスを待つのがよさそうだ。
市が尾駅前は賑やかな繁華街だが、鶴見川に沿って歩いてゆくと、のどかな田園風景が広がっている。途中、昼食や一休みなどの際にはお店が見当たらなくて少しばかり困るのだが、恩廻公園調節池の付近まで行くと横浜上麻生道路沿いにファミリーレストランやコンビニエンスストアがいくつか並んでいる。気象情報では朝方は曇りがちでもやがて晴れてくるというので期待して出かけたのが、少しばかり薄日は差すものの残念ながらずっと曇り空だった。
鶴見川河畔