神奈川県葉山町の一色海岸はリゾート感覚溢れる行楽地として人気だ。夏になれば大勢の海水浴客で賑わうが、春から初夏にかけての静かな海辺の風情も素敵だ。新緑萌える四月の下旬、一色海岸を訪ねた。
一色海岸
神奈川県葉山町はリゾート感覚溢れるお洒落な雰囲気が人気の町だ。海岸部にはいくつかのビーチを抱え、「葉山海岸」として「日本の渚百選」のひとつにも選ばれている。その中でも森戸海岸と並んで高い知名度と人気を誇るのが一色海岸だ。
一色海岸
一色海岸は葉山町一色の町の海岸で、南は「小磯の鼻」から北は公営の三ヶ岡駐車場付近まで、およそ800mの長さで延びる浜辺のことを通称する。浜辺と県道207号との間には神奈川県立近代美術館葉山館や神奈川県立葉山しおさい公園などが設けられており、それらの施設も含めて行楽地としての一色海岸を構成していると言っていい。また「小磯の鼻」付近には宮内庁の葉山御用邸が設けられていることでもよく知られている。
一色海岸
浜辺は夏になれば一色海水浴場として大勢の海水浴客で賑わう。工夫を凝らしたお洒落な“海の家”が建ち並び、まさに海辺リゾートとしての葉山を象徴する風景だ。オフシーズンには静けさを取り戻し、浜辺の散策が楽しい。
一色海岸
葉山町一色は東西に長いが、その西部、特に国道134号の西側の辺りは住宅地の中を風情ある路地が抜けており、洒落たカフェやレストランなども点在し、フォトジェニックな風景やディテールも多く、気の向くままに足を運んでの散策が楽しいところだ。

海を眺めながらの浜辺散歩から路地に迷い込む町散歩まで、散策好きの人にはお勧めの葉山町一色である。
一色海岸
一色海岸
夏になればお洒落な「海の家」が建ち並び、大勢の海水浴客で賑わう一色海岸だが、静かな散策の時間を楽しむなら夏の喧噪が訪れる前、春から初夏がお勧めだ。特に桜が終わって新緑の季節を迎えた頃から、梅雨の晴れ間に夏を訪れを感じるようになる六月頃まで、浜辺散策には絶好の季節だ。
一色海岸
陽光に新緑の輝く四月下旬、春の青空の下に広がる一色海岸がたいへんに美しい。眼前には相模湾の海原が広がっている。水平線の向こうには伊豆半島の山々が連なっているはずだが、季節のせいか天候のせいか、よく見えない。右手に目を向ければ辛うじて江の島の島影が見えている。週末の一色海岸には行楽に訪れたらしい家族連れの姿もあるが、あまり多くはない。のんびりとした春の浜辺だ。
一色海岸
一色海岸
海にはサーフィンやウインドサーフィン、カイトボードなどのマリンスポーツを楽しむ人たちの姿がある。波を待つサーファーたちの姿を眺めていると、けっこう飽きない。いい波は来るだろうか、次の波には乗れるだろうかと思いながら、目を凝らす。うまく波を捉えたサーファーの姿があると、何故かこちらまで嬉しくなってしまうから不思議だ。ウインドサーフィンやカイトボードを楽しむ人たちの姿も素敵だ。色鮮やかなセイルやカイトが青い海と空の中に映えてひときわ美しく、背景に江の島の島影が見える光景はたいへんにフォトジェニック。上手く風を捉えて海面を滑ってゆく彼らを目で追うのも楽しい。
一色海岸
浜辺の南端は「小磯の鼻」だ。海岸の一部が小さな岬のように海に張り出し、周辺部は磯辺になっている。「鼻」は「ハナ」、海に突き出した地形のことを言う。「小磯の鼻」は緑地公園のようになっていて、レジャーシートを広げてのんびりとくつろぐ人たちもいる。春の海辺でのんびりと過ごすのは素敵なひとときだろう。
一色海岸
一色海岸
下の磯辺では家族連れが磯遊びを楽しんでいる。岬の突端部の磯辺は特徴的な形状の岩場になっており、その形状が“洗濯板”を思い起こさせることから「一色の洗濯板」などと呼ばれることもあるようだ。潮が引けば磯辺は沖へ長く現れ、潮溜まりを覗き込みながらの磯遊びが楽しい。北側から南を見れば、磯遊びの人たちの向こうに長者ヶ崎の風景が見える。その様子もたいへんにフォトジェニックだ。
一色海岸
「小磯の鼻」の中ほどから北へ小さな防波堤が延びている。防波堤横には小さな舟が係留されていたりする。その風景もとてもいい。防波堤の突端まで行くと、見える景色も表情を変える。ここから見える一色海岸も素敵だ。
一色海岸
「小磯の鼻」の横手は葉山御用邸だ。葉山御用邸を脇を下山川が流れ、「小磯の鼻」の南側で海に注ぐ。河口部には臨御橋という橋が架けられている。朱い欄干が印象的な臨御橋は1968年(昭和43年)に架けられたもので、葉山の象徴的風景のひとつと言っていいが、架橋からすでに五十年を経て老朽化も激しく、対策が迫られている。臨御橋を渡れば大浜海岸、その先へ辿れば長者ヶ崎だ。
一色の町
一色の町
葉山町一色の西部、特に国道134号の西側に当たる辺り、住宅地の中を細い道が迷路のように抜けている。車一台がようやく通れるほどの、あるいは車の通行ができないような幅の細い道が、住宅の中を縫うように延びているのだ。その道の風情がとてもいい。

それらの道には「佐島石こみち」や「長雲閣こみち」、「森山こみち」、「しおさいこみち」といった名が付けられている。それぞれの「こみち」にはその名を記したプレートが掲示されている。そのプレートもそれぞれに工夫が凝らされていて楽しい。「一色第五町内会」と併記されたプレートもある。「一色第五町内会こみちマップ」も随所に掲示されている。これらはすべて一色第五町内会によるものなのだろう。こうした配慮によって素敵な町散歩が楽しめる。感謝したい。
一色の町
神奈川県立近代美術館葉山館の入口脇、海岸通り(県道207号)が大きくカーヴを描くところがあるが、ここの道脇に赤い丸形ポストが立っている。今では葉山一色の象徴的景観のひとつとなった丸ポストだ。この丸ポストの横から「こみち」が延びている。「レトロなポストこみち」だそうである。
一色の町
一色の町
葉山しおさい公園の北側を海岸通り(県道207号)から浜辺へ向けて延びる「こみち」がある。「しおさいこみち」だ。「しおさいこみち」は途中で曲がって、葉山しおさい公園と神奈川県立近代美術館葉山館との間を真っ直ぐに延びて浜辺へ抜ける。この「しおさいこみち」の風情がとてもいい。

葉山しおさい公園側の塀と神奈川県立近代美術館葉山館側の生垣に挟まれて延びる「しおさいこみち」は狭く、少し薄暗い。その先に小さく青い海が見える。辿ってゆくに連れて海は大きく見えるようになってきて、やがて「しおさいこみち」を抜け出れば目の前に一色海岸が広がる。何とも素敵な瞬間である。「しおさいこみち」の先に小さく切り取られたように見える海も、葉山一色の象徴的風景と言っていい。
一色の町
「しおさいこみち」とは海岸通り(県道207号)を挟んだ向かい側から東側への延びるのは「長雲閣こみち」だ。この名は、「こみち」脇に桂太郎の別荘「長雲閣」があったことに由来する。桂太郎は明治期の政治家で、陸軍大臣や内務大臣、文部大臣、大蔵大臣、外務大臣などを歴任した。「長雲閣」は伊藤博文によって命名されたものという。この長雲閣で、西郷従道、大山巌、松方正義、井上馨、山本権兵衛、小村寿太郎らと共に日英同盟問題が議論されたそうである。
一色の町
「長雲閣こみち」を100mほど辿ると「三ヶ岡通り」と交差する。「三ヶ岡通り」の向こうは「佐島石こみち」となってさらに東へ延びる。佐島石とは横須賀市佐島で産出される石材のことで、「佐島石こみち」脇にはこの佐島石を使った石垣が続いている。緩やかに曲がりながら続く佐島石の石垣、良い風情である。
一色の町
「長雲閣こみち」の入口から海岸通り(県道207号)を100mほど南へ行ったところに葉山しおさい公園の入口があり、その横に「一色海岸」バス停がある。このバス停周辺の風景が素敵だ。海岸通り(県道207号)に南西側からの道(県道207号の旧道か)が斜めに交差し、その交差点の内側の先端部分にバス停が設けられている。四阿風の待合所があり、横には木々が育っている。バス停の横に立つレトロな建物も一般の民家か。道を挟んで海岸通り(県道207号)の東側から見るバス停の風景がとてもいい。
一色の町
その「一色海岸」バス停前から東側に向けて「森山こみち」が延びる。途中で三ヶ岡通りと交差し、しばらく進むと「森山こみち」の北側に森山神社が鎮座している。森山神社は天平勝宝の頃(749〜757年)、良辧僧正によって勧請されたと伝えられているそうだ。奇稲田姫命を祀り、家業繁栄や家庭円満、農耕の守護として信仰されてきた。現在の社殿は1964年(昭和39年)に改築されたものという。神社は一色の住宅街の中、小高い丘の上に鎮座し、木々に包まれながらも晴々とした開放感を伴っている。美しい神社である。
一色の町
森山神社参道を降りて東に少し進むと国道134号に出る。そのすぐ南側、国道脇に葉山一色郵便局が建っている。この葉山一色郵便局の建物が何ともお洒落だ。真っ白な建物はうっかりするとレストランがカフェかと思ってしまいかねない。建物横に「HAYAMA ISSHIKI POST OFFICE」と書かれているのも素敵だし、建物脇に立てられたネームプレートも素晴らしい。建物自体もネームプレートもとてもフォトジェニック、アングルを変えて何度も写真を撮ってしまう。
一色の町
一色の町
一色の町を歩いていると、道脇に仏様が佇んでいらっしゃったり、道脇の家の生垣でツツジが見事に咲いていたりと、さまざまに素敵な風景に出会う。そうした出会いを楽しみつつの、「こみち」散歩がお勧めだ。
ヴィラマレーア
「長雲閣こみち」入口脇に「ヴィラマレーア(Villa Marea)」というレストランが建っている。石窯焼きピザや各種のパスタが人気を集めるイタリアンレストランだ。お昼に食事で立ち寄るならピザかパスタにサラダ、スープ、デザート、コーヒーをセットにした「本日のランチセット」がお得だ。「たまり醤油のなめらかプリン」など、プリンも人気のようで、地元の人が買い求めてゆく姿もあったりする。
ヴィラマレーア
ヴィラマレーア
店内は気取りが無くカジュアルな雰囲気だが、清潔感があってお洒落だ。それほど広い店ではないが、却って居心地の良さに繋がっている印象だ。女性ひとりでも利用しやすい雰囲気で、今回訪れたとき(2018年4月)にも一人で食事を楽しむ若い女性客の姿があった。

敷地内に建つ別棟の建物は何だろうかと思って訊ねてみると、貸しスタジオなのだそうだ。そうしたところも“葉山らしい”と思ってしまうのは、ただの思い込みか。

食事は美味しく、価格もリーズナブル、葉山一色の散策の際に立ち寄りたいレストランである。

参考情報
交通
一色海岸へはJR横須賀線逗子駅や京浜急行逗子線逗子・葉山駅からバスを利用しなくてはならない。「海岸回り」の葉山(一色)行きや葉山町福祉文化会館行きの路線を利用すればいい。

車で訪れる場合は県道207号沿いや国道134号沿いに点在する民間駐車場を利用しよう。

遠方から車で訪れる場合、横浜横須賀道路を利用するといい。逗子ICから逗葉新道経由で、あるいは横須賀ICから県道27号経由で、いずれも約7kmだ。行楽シーズンの休日には渋滞する。余裕を持って出かけよう。

飲食
葉山町一色の町にはお洒落なカフェやレストランが点在している。それらのお店で食事を楽しむのも葉山一色散歩の醍醐味だ。神奈川県立近代美術館葉山館にもレストランがある。海を眺めながらの食事が楽しめてお勧めだ。

陽気の良い季節ならお弁当を持参して、「小磯の鼻」にシートを広げて“青空ランチ”を楽しむのもお勧めだ。海風に吹かれながら、リゾート気分でランチタイムを過ごすことができる。

周辺
一色海岸を訪れたなら「葉山しおさい公園」や「神奈川県立近代美術館葉山館」なども訪ねておきたい。北側の丘裾に建つ「山口蓬春記念館」も近代美術や近代建築に興味のある人なら訪ねておくべきだろう。

一色の町の北側に横たわる丘は神奈川県立はやま三ヶ岡山緑地、木々の茂った丘を縫ってハイキングコースが辿り、展望所からは海や富士山を望むことができる。

一色海岸から南へ足を延ばせば大浜海岸、海岸沿いに「神奈川県立葉山公園」が設けられている。大浜海岸からトンビ磯、長者ヶ崎へと辿ってみるのも楽しい。
町散歩
海景散歩
神奈川散歩