佳景探訪
関之尾滝
宮崎県都城市の西端部に「関之尾滝」という名瀑がある。日本の滝100選のひとつである。上流部には国指定天然記念物の甌穴群もあり、見応えのある景勝地だ。夏の盛りの八月半ば、関之尾滝を訪ねた。



関之尾滝

関之尾滝

関之尾滝

関之尾滝
関之尾滝(せきのおのたき)は大淀川支流の庄内川にある滝だ。「日本の滝100選」にも選定された名瀑である。滝の上流側には規模の大きな甌穴群があり、これは国の天然記念物にも指定された貴重なものだ。周辺は公園として整備されており、遊歩道を辿って観瀑や散策を楽しむことができる。都城市の誇る景勝地のひとつである。

関之尾滝があるのは宮崎県都城市の西部、鹿児島県曽於市との県境が近い辺りだ。この辺りには「加久藤カルデラ」の火砕流堆積物による地層が広がっている。「加久藤カルデラ」は現在のえびの市付近に位置するカルデラである。この「加久藤カルデラ」が34万年ほど前に大噴火を起こし、噴火による火砕流がこの地域を覆い尽くした。火砕流堆積物の中には自らの圧力と高温とによって溶結し、岩石化するものがある。これを溶結凝灰岩という。関之尾滝と甌穴群は、この溶結凝灰岩の地層を長い年月をかけて水の流れが抉ってできた。宮崎県小林市の「須木の滝」や鹿児島県曽於市の「桐原の滝」、鹿児島県伊佐市の「曽木の滝」なども同じ「加久藤カルデラ」による溶結凝灰岩の地層に造られた滝である。

関之尾滝は大滝と男滝、女滝の三つの滝から成る。大滝は幅40m、高さ18mになる滝で、通常、関之尾滝と言えばこの大滝のことを指す。男滝と女滝は大滝の上流側から取水した用水が崖下に流れ落ちる滝である。大滝のすぐ下流側には吊り橋が設けられ、大滝を間近に見ることができる。大滝周辺には遊歩道が整備され、上流側の甌穴群や男滝、女滝、崖面に設けられた用水などを見学でき、充実した観瀑のひとときを過ごすことができる。


大滝

大滝

大滝

大滝

男滝
県道107号沿いに「滝の駅せきのお」という施設が設けられている。土産物や軽食の販売を行う店だが、その脇から関之尾滝へと降りてゆく遊歩道が辿っている。遊歩道を進んでゆくと豪快な水音が耳に届き、木々の間に滝が見え隠れするようになる。遊歩道の途中には滝を眼前に見下ろせる展望所もあるから、まずはそこからの眺めを堪能しておきたい。

滝のすぐ下流側に、庄内川を跨いで吊り橋が架けられている。その吊り橋を渡ってみよう。吊り橋は強固な造りで、それほど揺れることもなく、不安無く渡ることができる。この吊り橋から見る関之尾滝が絶景である。吊り橋は滝からわずか数十メートルしか離れていない。手を伸ばせば届きそうなほどだ。眼前に迫る瀑布は迫力に満ちて美しく、自然の営みというものの偉大さを実感させられる。水量や風向きにもよるが、吊り橋の上で観瀑を楽しんでいると容赦なく水飛沫が降りかかる。それを浴びるのも関之尾滝観光の醍醐味のひとつだろう。

吊り橋から見る関之尾滝は季節や時刻によってさまざまな表情を見せてくれる。お勧めの季節はやはり夏か。暑さの中、涼やかな風景を求めての観瀑がやはり楽しい。関之尾滝はほぼ西から東へ向かって流れ落ちており、時刻によってずいぶんと印象が違う。夏の朝、滝は日差しを浴びて白く輝き、木々の深い緑と夏空の青に包まれて爽快な景観を見せる。吊り橋の上から見れば、場所によっては水飛沫の中に虹を見ることもできる。夕刻になれば低くなった日差しが滝の上部を逆光で照らし、興趣に満ちた景観を見せてくれる。順光に輝く滝も美しいが、逆光に映える夕刻の滝もフォトジェニックだ。

大滝に向かって右手(川の左岸側)には崖上から流れ落ちる男滝の姿も見える。大滝を見た後では小さな滝だと感じるが、北前用水の“余水吐き”から流れ落ちる水の流れはなかなか興趣のある姿だ。大滝ばかりに目が奪われがちだが、男滝もぜひ見ておきたい。
甌穴群

甌穴群

庄内川右岸の遊歩道

南前用水路

庄内川左岸の遊歩道
滝の上流側は国の天然記念物にも指定された甌穴群だ。甌穴(おうけつ)とは河床や海岸などの堅い岩盤の地層に抉られた穴のことだ。岩盤の窪みや割れ目などに小石が入り込み、水の流れによって小石は窪みの中で転がり続けて岩盤を削ってゆき、やがて穴は大きく深くなってゆく。そうして長い年月をかけて形作られた穴が、甌穴である。甌穴自体はそれほど珍しいものではなく、日本各地に見られるが、関之尾の甌穴群はその規模の大きさが学術的にも貴重なものとして広く知られている。長さ600m、最大幅80mの範囲に広がるという規模の大きさはなかなか類例のないもので、甌穴の数は数千とも言われる。甌穴はもちろん今も形成が進行中である。

関之尾の甌穴群は河岸の遊歩道や川面近くを渡る橋の上から見ることができる。川幅いっぱいに広がる甌穴群の見せる光景は圧巻である。甌穴群は水量の多いときは水の流れの下に隠れてしまう。甌穴群をしっかり見たいなら、雨上がりのときなどは避けた方がいいかもしれない。

滝の上流部、川の右岸側(南側)は公園スペースとして整備され、広場が設けられている。この広場の崖下部分には用水路が流れている。関之尾滝周辺に築かれた三つの用水路のひとつ、南前用水路である。疏水に興味のある人ならぜひ見ておきたいものだ。

左岸側は川面近くの河岸に遊歩道が辿り、右岸と左岸とを繋いで2本の橋が架けられている。どちらの橋も水量の多いときには水の流れの中に潜ってしまう橋である。それだけに橋の上からは川面近くからの眺めを堪能できて楽しい。
北前用水路

北前用水路

北前用水路

北前用水路

川上神社
大滝の左岸側、崖下を辿るように用水が走っている。これは関之尾滝周辺に築かれた三つの用水路のうちのひとつ、北前用水路である。北前用水路は坂元源兵衛という人物によって築かれた。坂元源兵衛は先祖代々薩摩藩の開田係りだったという。時代が明治を迎えた頃、その開田技術を請われてこの地に移り、用水の開削を行った。関之尾滝上流300mほどのところに取水口を設け、河岸の岩盤をノミとツチだけで掘り抜き、約10年の歳月をかけて、1896年(明治29年)、用水を完成させたのだという。この用水の完成によって庄内川左岸の土地も広く開田が可能になったのだ。

北前用水路に設けられた「余水吐き」(水量の多いときに用水路を守るために余分な水を川に逃がすためのもの)から流れ落ちる水による滝が「男滝」である。北前用水路の下流側は崖の落差を利用して水を落とし、下の取水口で受けて下流側に流しているが、これが「女滝」である。

川の左岸側、大滝を見下ろす展望所の横手に川上神社が祀られている。江戸時代の初期、土地の人たちが大滝の下流側に堰を設けて開墾した水田に水を引いた際、滝上の崖に穴を掘って出水神様(デミジンサア)を祀ったのが始まりという。1685年(貞享2年)、時の領主島津久理の命を受けた家老川上久隆が滝上右岸の岩盤にトンネルを穿って取水に成功、これによってより広い土地の灌漑が可能になった。土地の人々はいつしか川上久隆を水神様として祀るようになったという。川上神社の名は、この川上久隆に由来するものということだ。

さらに時代が下って明治を迎え、坂元源兵衛が左岸側に用水の開削し、その後、坂元の意志を継いだ前田正名が用水を拡張、関之尾滝は下流域の農耕を支える一大水源地となった。関之尾の人々は新たに島津久理、坂元源兵衛、前田正名の御霊を出水神様と共に祀って敬った。現在の社殿は1962年(昭和37年)に建立されたものという。

川上神社に手を合わせ、先人たちの功績に思いを巡らせ、ゆっくりと北前用水路を見学しておきたい。疏水マニアにはお勧めである。
下流側から見る大滝と吊り橋

下流側から見る大滝と吊り橋

女滝
「滝の駅せきのお」横から降りてきて、大滝とは反対側、下流側へと降りてゆく遊歩道がある。これを降りてゆくと、大滝下流側の河原に出ることができる。河原から上流側を見れば大滝と吊り橋が視界に収まる。崖上の遊歩道から見下ろす景観とは表情が違って、これもぜひ見ておきたい景観だ。特に朝から午後早い時刻にかけて、順光に浴びた風景が美しい。日を照り返して白く輝く大滝と、滝を包み込む緑の木々、その上に広がる青空などが素晴らしい景観を織り成す。吊り橋を渡る人たちの姿が小さく見えるのも素敵な光景だ。絶景と言っていい。

その一角に「女滝」がある。北前用水路を流れてきた水を崖上から崖下の取水口に落とし、そこから下流側の用水路へと導いている。もちろん大滝には及ばないものの、なかなか豪放な滝である。朝方は日陰だが、午後から夕方には日を浴び、立ち上る水飛沫の中に虹が見えることがある。
北前公園

北前公園

北前公園

北前公園
女滝からさらに遊歩道を下流側に辿ると、庄内川の左岸に北前公園という公園が設けられている。北前用水路をうまく修景に活かした広場を中心に構成され、対岸の農村風景や周囲を取り囲む山々を借景にして美しい公園として整備されている。いかにも観光地的な雰囲気の漂う大滝周辺とはまったく違って、のんびりと穏やかな空気感が漂っている。関之尾滝に観光に訪れた人たちも、この公園にはほとんど足を延ばすことはないようだ。園内には四阿も設けられているから、しばらく静かさに満ちたひとときを過ごすのもお勧めだ。

北前公園の広場の一角に「宮崎県ドクターヘリ緊急離着陸場」との案内板が設置されていた。緊急時にドクターヘリが離着陸する場所として指定されているそうである。ドクターヘリはテレビドラマによってその存在が一般にも広く知られるようになった。宮崎県のドクターヘリは宮崎大学医学部附属病院救命救急センターに配備されている。ドクターヘリがこの広場に離着陸する様子を見てみたい気もするが、そうした状況が起こらないことが何よりだろう。

広場の一角には「イノシシ出没注意」の警告板もあった。この辺りは都城盆地の西端部、西には山々が重畳するところだ。当然、イノシシも棲息しており、公園内で遭遇することもあるのだろう。イノシシを見かけても危険だから近づかないようにとの旨の注意書きが添えられていた。
田園風景

田園風景
北前公園へのアクセス路を西へ上がってゆくと、長閑な田園風景が広がっている。稲が育って緑の絨毯と化した水田が横たわり、周囲には山々の稜線が霞み、ところどころに杉木立があって風景にアクセントを添える。美しい風景である。その風景の中にトラクターの姿があったり、緑濃い水田の中にぽつんと農作業の人の姿があったりするのも素敵な光景だ。その風景の美しさを楽しみつつ歩いていると、すっかり日々の喧噪を忘れる。

田園風景の中の散策を楽しみつつ県道107号に戻れば、西へ数百メートルで「滝の駅せきのお」だ。関之尾滝観光の際に一回りしてみるのもお勧めである。


関之尾滝

関之尾滝

関之尾滝
関之尾滝の観光なら、「滝の駅せきのお」横から降りてきて、吊り橋を渡って右岸側に渡り、右岸側の遊歩道を辿って甌穴群を見ながら上流側へと進み、橋を渡って左岸側へ移り、北前用水路に沿った左岸側の遊歩道を辿って一周するというコースが一般的だろう。余裕があれば、下流側に降りて女滝や河原からの大滝の眺めも楽しんでおきたい。

さらに時間と体力に余裕があれば、北前公園から田園風景の中へ散策の足を延ばすのもお勧めだ。疏水に興味のある人なら庄内川右岸側の南前用水路も見ておきたいところだろう。

日本の滝100選にも選定された関之尾滝や国指定天然記念物の甌穴群、さらに北前用水路などの疏水、静かで穏やかな北前公園と田園風景、さまざまな魅力を堪能することのできる関之尾滝観光である。滝マニアや疏水マニアはぜひとも訪れるべきだし、田園散歩の好きな人にもお勧めだ。素晴らしい景勝地である。
参考情報
交通

関之尾滝は鉄道の駅からは遠く、車での来訪が便利だ。宮崎自動車道都城ICから約13km、関之尾滝を目的地にナビ設定すればいい。

周辺には「滝の駅せきのお」の駐車場を含め、無料駐車場が設けられており、駐車台数にも余裕がある。

鉄道を使って訪れる場合、都城駅から高崎観光バスの運営する路線バスの「霧島神宮」行きを利用し、「関の尾滝」バス停で降りればいい。

飲食

「滝の駅せきのお」で軽食も可能だが、本格的な食事メニューは用意されていない。周辺に他に飲食店はない。飲食店を探すのなら都城市街地へ移動するのが賢明だろう。

事前にお弁当などを用意しておいて、北前公園でアウトドアランチを楽しむのも悪くない選択だ。

周辺

関之尾滝から北西の方角へ5km足らずで鹿児島県曽於市の「溝ノ口洞穴」がある。火砕流堆積物の地層を地下水が浸食して生じた洞穴で、入口に建つ鳥居が幻想的な景観を見せる。ぜひ訪ねておきたい。

庄内川の支流である溝ノ口川に沿って上流側に辿れば5kmと少しで三連轟、8kmほどで桐原の滝がある。車で移動すればそれほど時間はかからない。併せて訪ねてみるのがお勧めだ。

関之尾滝
関之尾滝

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