横浜線片倉駅北口前のロータリーのすぐ北側にある交差点の角の歩道に、「関東武士ゆかりの地散歩」のルートであることを示す石柱が建っている。「関東武士ゆかりの地散歩」はその名が示すようにかつての関東武士に縁の寺社などをめぐる散策ルートで、散田町の真覚寺から片倉駅前までの6kmほどで設定されている。片倉駅はすぐ近くに片倉城跡があることもあり、また「絹の道」に近いこともあって、こうした散策ルートに含められているのだろう。
「関東武士ゆかりの地散歩」の案内柱のある交差点を西へ折れて国道16号へ出ると目の前が
片倉城跡公園だ。交差点から国道へ至る道は
サルスベリ並木で、夏には紅白の美しい花が楽しめる。片倉城跡公園は中世の山城であった片倉城の遺構を公園として整備したもので、桜や花菖蒲の名所として知られる。国道16号を北へ辿るとすぐに湯殿川を渡る。「住吉橋」という橋だが、片倉城跡公園内の住吉神社への参道が近いことからこの名があるのだろう。
住吉橋から湯殿川の下流側を見ると、左岸が公園のように整備されて河原近くまで降りて行けるようになっている。国道のすぐ脇ということもあり、周囲は市街地なのであまりのんびりとした雰囲気は楽しめないが、水際近くまで降りて行けるのはやはり楽しい。河畔に濃い陰を落とす樹木は桜で、
春には美しい風景に染まる。住吉橋の下流側に架かる橋は新山王橋といい、片倉駅北口と北野街道を繋いでいる。片倉駅北口から新山王橋を経て北野街道へ至る道はハナミズキ並木で、初夏の開花期の風景が美しいが、赤い小さな実をつけ、葉が紅葉に染まる今の時期も悪くない。
住吉橋から国道16号を北へ向かうと「片倉城址」のバス停がある。公園の名は正式には「片倉城跡公園」なのだが、片倉城跡は地元では「片倉城址」と通称され、バス停も「片倉城址」であるために、公園の名も「片倉城址公園」と呼ばれることが少なくないようだ。
「片倉城址」バス停を過ぎる辺りから国道16号は上り坂に差し掛かる。北野街道との交差点を過ぎると、頭上を京王線が通っている。国道の両脇は丘の斜面で、国道が「切り通し」の形で台地を抉って通されていることがよくわかる。京王片倉駅前から西へと小道を辿ってみると、すぐに丘の上へと出る。今では住宅が建ち並んでいるが、その間に畑も残り、昔は丘の上に広がるのどかな畑地であったことをうかがわせる。
丘の上の小道を進むとすでに緑町で、そのまま辿れば緑町公園の傍らを経て山田川の河畔へと降りることもできるが、引き返すようにして再び国道16号へと戻った。丘の上から降りるようにして国道へ出ると子安町交差点、八王子駅南口から南へと延びてきた「とちのき通り」が国道16号と合流する交差点だ。
左手に八王子医療刑務所の敷地を見ながら「とちの木通り」を進む。緩い上り坂だった道路はすぐに下り坂に変わり、八王子駅方面へと降りてゆく。「とちのき坂」バス停の付近から東へ入り込んでゆくと、子安町二丁目の住宅街の中、八王子第三中学校と第六小学校の並ぶ裏手に
六本杉公園がある。特筆するほどの広さのある公園ではないが、住宅街の直中だというのに中央には湧水池を抱え、「八王子八十八景」のひとつにも選ばれている。
子安町は丘の北斜面に広がる街区で、住宅街の中を南北に抜ける幾筋かの坂道が風情ある表情を見せる。その子安町の中を北へ辿ってゆけば、やがて「
南大通り」、
八王子駅の南口へと至る。「南大通り」と「とちの木通り」との交差点の角に「関東武士ゆかりの地散歩」を示す大型の案内板がある。「関東武士ゆかりの地散歩」のルートに沿って八王子を歩いてみるのもよいかもしれない。
十数年も前のことになるだろうか、子安町の坂の上に「これく亭」というスリランカ料理と紅茶の店があった。今ほど「エスニック料理」が一般的ではなかった頃だった。小さいながらも洒落た雰囲気の店で、各種のカレーがとても美味しく、「知る人ぞ知る」的な感じも楽しく、なかなか人気のある店だった。いつだったか、突然お店が無くなったと思ったら、日野市に移転したとの話を聞いた。人づてに場所を聞いて日野市の店にも二、三度行ってみたが、無意識に以前の店と比べて違和感を感じてしまい、何となく足が遠のいてしまった。その日野市の「これく亭」も今は無いという。子安町の坂道を辿りながら、ふと在りし日の「これく亭」の店先の様子を思い出した。