東京都北区の南端部、駒込駅近くに霜降銀座という下町情緒溢れる商店街がある。霜降銀座はそのまま区境を跨いで豊島区の染井銀座へと繋がっている。秋も深まった十一月初旬、霜降銀座と染井銀座を訪ねた。
霜降銀座と染井銀座
駒込駅から本郷通りを北へ向かうと、500mほどで「霜降橋」という交差点がある。その交差点の駒込駅側に、本郷通りから西へ延びる細い商店街がある。商店街の入口にはアーチが設けられ、「しもふり」の文字が掲げられている。霜降銀座商店街である。ちなみにアーチの「も」と「ふ」の間にあるのは霜降銀座のマスコットキャラクター「しーちゃんマーク」だそうだ。「しーちゃんマーク」は1996年(平成8年)に公募によって決定されたもので、本郷高校デザイン科の生徒による作品という。目にすれば一目瞭然だが、ひらがなの「し」をモチーフにデザインされたものだろう。
霜降銀座と染井銀座
霜降銀座と染井銀座
霜降銀座と染井銀座
霜降銀座と染井銀座
アーチをくぐって霜降銀座に足を踏み入れると、その道の狭さに少し驚く。霜降銀座商店街公式サイトによれば、この道は、かつて谷田川という川だったそうだ。1931年(昭和6年)から1940年(昭和15年)にかけて谷田川を暗渠にする工事が行われ、暗渠となった川の上には新しい道路が造られた。その道路沿いに次第に商店が増えてゆき、やがて1951年(昭和26年)、霜降銀座栄会が組織され、霜降銀座商店街としての形ができあがった。それから六十年余、商店街に軒を構える店舗は代替わりしつつ存続し、今も古き佳き商店街の風情を漂わせている。

霜降銀座商店街は長さ250mほど、公式サイトによれば2014年(平成26年)11月現在で店舗数58だそうである。道幅は3〜4mほど、もちろん歩行者と自転車専用で、一般車両は通行不可だ。

商店街にはさまざまな店が並んでいる。衣料品店、眼鏡店、宝飾店、靴店、鞄店、書店、花屋、雑貨店、電気店、美容院、歯科医、接骨院、化粧品店、鮮魚店、精肉店、八百屋、和菓子店、洋菓子店、パン屋、蕎麦屋、洋食屋、紅茶専門の喫茶店等々、ありとあらゆる店があると言ってもあながち過言ではないが、特に衣料品関連の店と生鮮食品の店が多いのは下町の商店街らしいところか。そのほとんどは個人商店のようだ。まだ開業して日の浅い店舗もあるようだが、中には1940年代、谷田川が暗渠となって道が造られて間もない頃に開業した店舗もあるという。

それらの店々がまるで“肩を寄せ合う”ように軒を並べる。狭い道だから向かい合う店と店との距離も近い。それぞれの店には商品が雑然と陳列され、中には道にはみ出すように商品を陳列している店もあって、ただでさえ狭い道がさらに狭くなっているところもある。その中を買い物客が行き交う。人と人とのすれ違いにも気を遣うほどの狭さだが、そんなところも庶民的な商店街の魅力のひとつだろう。
霜降銀座と染井銀座
霜降銀座と染井銀座
霜降銀座と染井銀座
本郷通りから200m近く西へ辿ると、商店街のすぐ北側の道路から分岐してきた道と合流し、商店街の道路は少し広くなる。道が広くなっても平日の夕方と日曜休日の午後は車両通行禁止で、歩行者と自転車の専用道路になっている。広くなった商店街を数十メートル進むと区境を越えて西は豊島区駒込三丁目(霜降銀座は北区西ヶ原一丁目)、商店街は「染井銀座」となって道路はさらに西へ延びる。染井銀座の「染井」は言わずと知れた桜の「ソメイヨシノ(染井吉野)」発祥の地である染井村の「染井」である。

染井銀座は道が広くなったぶんだけ整然とした印象だが、やはりこちらも下町情緒溢れる商店街の佇まいだ。道沿いにはさまざまな店が建ち並び、店先の様子などを眺めながらの散策が楽しい。商店街から横へ入り込む路地の佇まいなども素敵だ。
霜降銀座と染井銀座
霜降銀座と染井銀座
霜降銀座と染井銀座
豊島区駒込三丁目から六丁目、七丁目へと染井銀座を西へ辿って行く。西へ行くにつれて徐々に通り沿いの商店の数が少なくなる印象だが、商店街としてはそのまま続いているようで、やがて再び区境を越えて北区西ヶ原、三丁目と四丁目の境に沿って道が延びている。道沿いには商店が点在し、「西ヶ原商店街」の名がある。そのまま道なりに辿って行けばやがて都電荒川線滝野川一丁目停留所付近へ至るようだ。

霜降銀座から染井銀座へ、下町情緒漂う商店街の魅力を存分に楽しめるところだ。その中に身を置き、その空気感を肌で感じるのが、やはり商店街散策の醍醐味だろう。ただ散策を楽しむだけでも悪くないが、どこかの店に立ち寄るのもお勧めだ。

今回、霜降銀座商店街に店を構えるそば処「扇屋」で食事をした。天丼とざる蕎麦のセットを注文したが、天丼も蕎麦もたいへんに美味しかった。霜降銀座商店街公式サイトによれば、扇屋は創業85年(2014年現在)、最初期に開業された店のひとつだそうだ。メニューの構成も、その味も、奇をてらったところのない、庶民的な町の蕎麦屋として言わば“正統的な”ものだが、それこそが80年以上続く店の在り方というものなのだろう。
亀の湯
亀の湯
亀の湯
本郷通りに面した霜降銀座商店街の入口から本郷通りを100mほど南へ、すなわち駒込駅側へ行ったところの本郷通り西側に、亀の湯という銭湯が建っている。現代的なビルに囲まれた立地だが、その中で破風造りの建物がなかなかの存在感を放っている。

入口に設けられた唐破風は残念ながらアーケードに遮られて見にくいが、そのアーケードもひとつの興趣だろう。アーケードはかつては本郷通りに沿って長く延びていたアーケードだったのだろうか。時代の変遷と共に取り払われ、こうして亀の湯前に残るのみとなってしまったのだろう。入口の唐破風の下には「亀の湯」と記された大きな看板が掲げられている。内部に照明を設けて、少し薄暗いアーケードの下で亀の湯の名を浮き上がらせ、それが本郷通りの向かい側からもよく見える。

時代の流れと共に変わってゆく街の景観の中で、そうした変化に抗うように昔ながらの佇まいを残す銭湯の姿には何とも言えない興趣を感じる。建物奥に建つ煙突も今では周囲のビルより低いが、ある種の風格のようなものを漂わせているようにも思える。こうした景観に出会えるのも街散策の醍醐味である。
駒込妙義坂子育地蔵尊
駒込妙義坂子育地蔵尊
駒込妙義坂子育地蔵尊
亀の湯前からさらに100m近く駒込駅側、本郷通りの東側に地蔵尊が祀られている。「駒込妙義坂子育地蔵尊」というそうだ。本郷通りはこの辺りで緩やかな坂道を成しているが、その坂が妙義坂というらしい。

地蔵尊の傍らには豊島区教育委員会による解説パネルが設置されている。それによれば、1668年(寛文8年)に駒込の今井家が子孫繁栄を祈願して地蔵尊とお堂を建立したと古文書に記されているという。戦前には70坪ほどの境内地に多くの供養石像が並び、節分や縁日には大いに賑わったそうである。1945年(昭和20年)4月の大空襲でお堂は焼失、戦後、ここに駒込診療所が開設され、その一角に祀られたそうだが、現在は北区上中里の城官寺の境外地蔵尊として祀られているという。

本郷通りに面して狭いながらも立派な境内地とお堂によって祀られている印象だが、現在のお堂と境内地は2006年(平成18年)に駒込駅前通り商店街振興組合創立五十周年と駒込二丁目親和会戦後六十周年の記念事業として建立、改修がなされたものだそうだ。訪れたときにもお堂には花が供えられていた。今も地域の人々の厚く信仰されているのだろう。
参考情報
交通
霜降銀座はJR山手線駒込駅や東京メトロ南北線駒込駅が近い。駅から本郷通りを北へ数百メートル辿れば霜降銀座入口のアーチがある。

車で訪れる場合は王子方面から本郷通りを南下、神田方面から本郷通りを北上すればいい。首都高速道路を利用する場合は神田橋出入口を利用し、本郷通りへと辿ればわかりやすい。

商店街沿いや周辺にコインパーキングが点在しており、車で訪れた場合はそれらを利用すればいいが、いずれも小規模で、周辺の道も狭く、場所もわかりにくい。土地勘の無い人は車での来訪は避けた方が無難だ。

飲食
商店街には蕎麦屋などの飲食店も点在している。それらのお店で食事を楽しむのも商店街散歩の醍醐味だ。

周辺
本郷通りを北へ辿れば旧古河庭園が近い。霜降銀座商店街入口から旧古河庭園入口まで500m足らずだ。さらに本郷通りを辿れば滝野川公園、旧古河庭園から1kmほど行けば飛鳥山公園だ。

本郷通りを南へ向かい、駒込駅を通り過ぎれば六義園がある。霜降銀座商店街入口から六義園正門まで1kmほどだ。

駒込から巣鴨にかけて、桜の品種「ソメイヨシノ」発祥の地として知られる染井村だったところだ。各所に「染井吉野発祥の地」に因んだ碑なども設置されている。それらを巡って桜の季節に散策を楽しむのも一興だろう。
町散歩
東京23区散歩