東京都調布市の西北端に野川公園という東京都立の公園がある。野川の河畔に広場などを設けて整備された広大な公園だ。園内には樹木が茂って緑に溢れ、市街地の中の公園であることを忘れてしまうほどだ。新緑の美しい四月の末、野川公園を訪ねた。
野川公園
野川公園は、その大部分が東京都調布市に位置しているが北側では市境を越え、小金井市、三鷹市に跨っている。そもそもこの辺りは市境が複雑に入り組んだところで、東の三鷹市と西の府中市に挟まれたように調布市の市域が細長く北へ延び、その先端部分に野川公園がある。40haほどの面積を有する広大な公園だが、その中央部を東八道路(都道246号)が抜けて公園を分断している。そのため公園は野川河岸の北東側区域と芝生広場と樹林から成る南西側区域の二つの区域から構成される形だが、両者は三つの人道橋で繋がれており、行き来にそれほどの不便はない。
野川公園
野川公園
野川公園
野川公園
東八道路の南西側の区域は芝生の広場と樹林から構成され、広大な面積を有している。芝生の広場は樹林によっていくつかに区切られ、「大芝生」や「自由広場」、「わんぱく広場」、「いこいの広場」などと名付けられた小広場となり、それらがまとまって全体を成している。とは言っても公園全体が大きいためにそれぞれの広場もかなりの面積を有し、初めて訪れたときにはその広さに少々驚く。野川公園はそもそもは北に隣接する国際基督教大学のゴルフコースだったところを買収し、公園として整備したものらしく、それを知ればその広大さと樹林と広場で構成された形であることにも納得がいく。

公園南端部、人見街道に面して駐車場や管理所が設けられており、ここが公園のメインエントランスだ。管理所の北側にはシンボルツリーのように大きなクスノキが枝を広げ、その向こうには広大な芝生の広場が広がっている。「大芝生」と名付けられた広場で、公園内で最も開放感に富んだ広場だ。管理所の西側、駐車場横には「バーベキュー広場」があり、休日にはバーベキューを楽しむ人たちで賑わう。その西側にはテニスコートやテニス壁打場があり、ボールの音が響いている。管理所の北東側は「自由広場」と「わんぱく広場」で、「わんぱく広場」はその名からも連想できるが子どもたちの遊び場としての役割で、アスレチック風のさまざまな遊具類が置かれている。広場の北に奥まったところは「いこいの広場」で、その中には「少年デイキャンプ場」が置かれ、キャンプのための施設が設けられている。駐車場横からテニスコート横にかけての西端部は樹林地となっており、ヒマラヤスギの林やカツラの林、イチョウの林などから構成された中を散策路が辿っている。

芝生の広場と樹林との組み合わせがこの区域の魅力と言ってよく、緑に包まれながらのんびりと穏やかなひとときを過ごすことができる。特に中央部の「大芝生」周辺は木陰にシートを広げてくつろぐ家族連れなどの姿も多く、平日には遠足で訪れた子どもたちで賑わっていることも少なくない。園内の樹木はどれも大きく、初夏の日差しを浴びて新緑に輝く姿がたいへんに美しい。木立を抜ける風に吹かれながらのんびりと一休みするのもよく、ゆったりとした気分で散策を楽しむのもいい。
野川公園
野川公園
東八道路の北東側の区域はその中央部を野川が流れ、その河岸に散策路が辿っている。緩やかな曲線を描いて流れる野川と河岸を彩る木々の風景はたいへんに美しく、この風景が野川公園を象徴する風景だと言っていいだろう。野川の河岸はコンクリートで固められてもおらず、ほぼ自然のままの姿を保っている。水面近くまで降りてゆくこともでき、水辺の植物なども間近に観察することができるのが嬉しい。

河岸の遊歩道を散策する人の姿は多い。自転車で行き過ぎる人もある。野川公園への来訪者だけでなく、野川沿いに散策を楽しむ人も少なくないのだろう。河岸の遊歩道を歩きながら遠くへ視線を向けると眼に入るのは野川の流れと河岸の木々だけだ。市街地の中に位置する公園では木々の向こうに高層のビルなどが見え隠れすることがあるものだが、ここではそれもない。市街地の中の公園であることをすっかり忘れ、自分がどこにいるのか、ふとわからなくなるような感覚を味わう。そんな錯覚も楽しい。
野川公園
野川右岸側の北端部には「武蔵野の森」と名付けられた区域がある。なだらかな起伏を伴った草はらの広場と樹林とで構成された区域で、ここも緑濃い木々の織りなす穏やかな雰囲気が魅力だ。野川の岸辺からそのまま続く様子がよく、川の流れを間近に感じながら穏やかなひとときを過ごすことができる。
野川公園
野川の左岸側、すなわち北東側は国分寺崖線の湧水を集めた湿地になっており、その大部分はフェンスで囲まれた「自然観察園」として保護されている。「自然観察園」は時間に制限があるものの一般にも開放されており、フェンスに設けられた扉を開いて中に入ることができる。中は散策路が辿り、湿地部分では木道が設けられ、湿地に育つ植物を観察しながらの散策が楽しい。奥まった一角には「ホタルの里」と名付けられた一角があり、この区画は立入禁止になっている。季節になればホタルの姿が見られるのだろう。
野川公園
「自然観察園」の中ではシャガやキショウブ、サクラソウ、エビネ、カントウタンポポなど、さまざまな花々も楽しめる。一角ではオドリコソウが花を咲かせていた。見事な群落を成しており、なかなか見応えのあるものだった。花の好きな人には見逃せないものかもしれない。
野川公園
野川公園
野川公園
野川公園は散策を楽しむにもよく、家族連れやグループでのんびりと休日を過ごすにもいい。トイレも園内随所に設置されており、特に不便を感じることはない。難点を言えば、公園中央部を貫く東八道路の交通量が多く、道路に近い辺りでは車の音が響いてくることだろうか。そしてまた公園の南側に調布飛行場があるために公園の真上を低く軽飛行機が行き過ぎることがあり、その騒音もかなり大きい。管理所横に騒音のレベルを示す計器が置かれているのもそうした立地を示していて面白い。しかしそれも飛行機好きの人には魅力のひとつになるのかもしれない。

今回訪れたのは四月末、管理所前では鯉のぼりが風に泳いでいた。園内では藤や花水木が花を咲かせていたが数は少ない。花好きの人には物足りなさがあるかもしれないが、「自然観察園」のオドリソウなどは楽しめるものだろう。

野川公園の最大の魅力は、その広大な敷地に溢れる緑だ。野川の水辺の緑、芝生の緑、木々の緑、それらに包まれていると日々の喧噪を忘れてゆったりと穏やかな気持ちになる。吹き渡る風も清々しく爽やかだ。野川の岸辺を歩いたあとは、お気に入りの木陰を見つけてシートを広げ、のんびりとランチタイムを楽しもう。
参考情報
本欄の内容は野川公園関連ページ共通です
交通
電車でのアクセスであれば、西武多摩川線の新小金井駅や多磨駅が最寄りということになるが、どちらも公園までは徒歩で十五分ほどはかかるだろう。バスであればJR中央線の武蔵小金井駅や三鷹駅、あるいは京王線の調布駅からのバス路線を利用するといい。

駐車場は有料で200台分を越えるスペースで用意されているが、公園の規模から考えれば行楽シーズンの休日にはとても足りないだろう。駐車場は人見街道側にあるが、東八道路の交差点にも案内標識があり、比較的分かり易い。

飲食
管理所横に売店があり、カレーや焼きそば、うどん、たこやきなどの軽食とドリンク類を販売しているが、他に本格的なレストランは無い。公園の性格から言ってもお弁当を持参して、木陰にシートを広げてのランチタイムがお勧めだ。

公園南側を通る人見街道の公園入口近くに蕎麦屋とコンビニエンスストアがあるが、他には公園周辺にお店は無い。公園に向かう途中でおにぎりなどを調達しようという場合は公園に近づく前に立ち寄っておいた方がいい。

バーベキュー場の利用は無料だが予約が必要とのことだ。利用時間や問合先などについては西武・武蔵野パートナーズによる公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

周辺
野川の上流部、西側には都立武蔵野公園が隣接しており、野川河岸の遊歩道を辿って行けば道路を一本横切るだけで武蔵野公園へと入って行ける。武蔵野公園も緑に溢れた公園で、特に野川河岸の散策が楽しい。また春の桜の時期秋の紅葉の時期の武蔵野公園はたいへんに美しい。ぜひ散策の足を延ばしたい。

野川を下流側へ辿れば「大沢の里」と呼ばれる一角があり、昔ながらの水田の広がる風景や古民家などが残されている。時間が許せば野川の河岸を辿って散策を楽しみたいところだ。

野川公園から南へ、人見街道を越えて少し辿れば都立武蔵野の森公園だ。調布飛行場に隣接した、開放感溢れる公園だ。ここもぜひ訪ねておきたい。
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