日南海岸風景
青島
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宮崎市付近の海岸部には長い砂浜が続いている。南に下ってその砂浜が途切れ、県南部の岬と入り江が幾重にも連なる海岸線が始まろうとする位置に、青島がある。青島はおそらく宮崎の観光名所としてもっともよく知られた場所のひとつに違いない。

かつて宮崎は新婚旅行先として人気を集め、空前の観光ブームに湧いた時代があった。その時代の観光宮崎の象徴がまさにこの青島だったと言ってもよいだろう。1960年(昭和35年)に島津久永・貴子(昭和天皇の第五皇女)夫妻が新婚旅行で青島を訪れ、青島、霧島、桜島を結ぶ「三島ルート」が脚光を浴び、さらに二年後の1962年(昭和37年)には新婚間もない皇太子夫妻(現天皇・皇后)が来県、青島とその周辺の日南海岸は「プリンセスライン」として全国的な知名度を高めた。青島と日南海岸は新婚旅行先として人気を集め、1960年代後半から1970年代前半までのおよそ10年間、宮崎は「新婚旅行ブーム」に湧いたのだった。その中心に青島があったと言っても過言ではない。

あれから時は過ぎ、「観光宮崎」は斜陽の時代を迎えて久しい。しかしそうした時代の変遷をよそに、青い海に浮かぶ青島の姿は今も変わらない。海外旅行が普通のことになってしまった現在では南国的風情の魅力も薄れてしまったが、それでも亜熱帯の植物が茂り、「鬼の洗濯板」と呼ばれる奇岩に周囲を囲まれた青島の姿は訪れる人々を魅了し、宮崎を代表する観光地のひとつとしての名に恥じない。
青島
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青島は周囲が1.5キロほどの小さな島で、その島全体を覆うように亜熱帯の植物が茂っている。島内に入ると目につく特徴的な南国の樹木がビロー樹で、その数は五千本近くを数え、中には樹齢三百年ほどの木もあるのだという。ビロー樹の他にも島内には約200種の植物が自生し、そのうちの27種が熱帯亜熱帯性の植物であるという。そのため島内全域は「青島亜熱帯性植物群落」として国の特別天然記念物に指定され、保護されている。

「宮崎観光の父」と呼ばれた宮崎交通初代社長の故岩切章太郎氏は、かつて宮崎の南国的イメージを演出するために街路などへのビロー樹の植栽を考えたという。結局はビロー樹は生長に要する期間が長いことから適さず、選ばれたのはフェニックスだったのだが、青島に自生するビロー樹がいかに宮崎の南国的イメージを象徴しているかを示す逸話であるかもしれない。

熱帯亜熱帯性の植物が繁茂した理由にはおよそ二つの説があるという。黒潮に乗って漂着したそれらの植物の種子などが根付いたという「漂着帰化植物説」と、第三紀前に日本に繁茂していた植物が気候、風土に恵まれて残ったという「遺存説」がそれらの学説だが、いずれにしても黒潮によってもたらされた気温の高い風土が背景にあるのは間違いないところだろう。こうした熱帯亜熱帯植物の群落は宮崎県内では他に日南市の虚空蔵島や串間市の筑島、石波の海岸樹林都井岬などが知られる。最近では以前にはそうした植物が見られなかった場所でも自生し始めており、地球温暖化との関連が懸念されているのだという。
青島
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青島の周囲を取り囲む磯辺は、その特徴的な形状から「鬼の洗濯板」と通称されている。その凹凸が洗濯板を思わせることから、「鬼が用いるような巨大な洗濯板」を昔の人々が連想したのだろうが、今では「洗濯板」そのものが生活の場から消え去り、若い世代の人々にとっては理解し難いものになってしまっているのかもしれない。

この特徴的な磯辺は、砂岩と泥岩の層が規則的に幾層にも重なり、それが傾斜角約20度ほどで斜めに隆起し、波の浸食を受けて生じたものだという。柔らかな泥岩部分が多く浸食され、堅い砂岩は浸食が遅いためにこうした形状を生み出したものだ。この砂岩と泥岩とが層になった岩盤は新第三紀(三千万年前から百万年前まで)に海床に堆積したものだと解説板には記されている。その後の地殻変動によって隆起し、長い年月をかけてこのような姿を生み出したのだ。「鬼の洗濯板」は青島周囲の他にも堀切峠下の海岸や内海付近の海岸にも見られるものだが、特に青島の周囲は景観も素晴らしく、「青島の隆起海床と奇形波蝕痕」として国の天然記念物にも指定されている。

「鬼の洗濯板」は以前から「鬼の洗濯岩」とも呼ばれ、両呼称が混在してきた。地元では昔から「鬼の洗濯板」と呼んでいたから、「鬼の洗濯岩」という呼称に対しては勘違いして覚えられてしまったものが定着したのだろうと思ったものだ。宮崎県立図書館所蔵の文献を調査した結果では「鬼の洗濯板」は1933年(昭和8年)、「鬼の洗濯岩」は1954年(昭和29年)のものがそれぞれ最も古かったという。同じものに対して呼称が混在するのは具合が悪いとの判断があったのか、宮崎県では2007年9月、観光PR用には「鬼の洗濯板」で統一するとの見解を発表した。「洗濯板」の方が情緒があるという理由であるらしい。

「鬼の洗濯板」は引き潮の時に青島の周囲に広く現れるが、満ち潮になると波間に消える。訪れる際には地元の新聞などで満潮干潮の時刻を調べておくとよいかもしれない。
青島 青島
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かつての国道220号、現在の県道377号から青島へ辿る道脇には観光客向けの土産物屋やレストランなどが軒を連ねている。昔、宮崎が「新婚旅行ブーム」で賑わった頃、この道は新婚カップルをはじめとする観光客で埋め尽くされていたものだった。道脇の商店は切り売りのパイナップルの試食を勧め、どこからか聞こえてくるハワイアン音楽が「南国ムード」を盛り上げていたものだった。あれから時は流れ、一時期はすっかり寂れてしまった印象もあったが、近年になってまた賑わいを取り戻しているようにも感じる。
青島
商店の並ぶ通りを抜け、宮交ボタニックガーデン青島(亜熱帯植物園)の入口脇を過ぎ、遊歩道はさらに浜辺から青島へと繋いでいる。遊歩道は弥生橋で海を渡るが、潮が引けば橋の下にも「鬼の洗濯板」が顔を出し、歩いて青島へ渡ることができるようになる。青島のほぼ中央部には青島神社が鎮まっている。その鳥居が弥生橋からもよく見える。青島神社は彦火々出見尊と豊玉姫の夫婦神を祀っており、縁結びの御利益があることで知られる。古の時代には青島はその全域が霊場であり、一般の人々の入島が禁じられていたこともあったという。青島神社の鳥居付近の道脇には数件の土産物屋の露店が並んで、装飾品の貝殻細工などを商っている。この露店もかつては道脇いっぱいに並び、店先を覗き込む客の姿も多く見られたものだった。
青島
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観光客のほとんどは青島神社に参拝して戻って行くが、青島はその外縁を歩いて一周することもできる。島の東側に回り込むと目の前に太平洋の海原が広がり、観光地の喧噪は失せる。視界の端から端まで延びる水平線、そこから伸び上がる夏の雲、潮騒の音が不思議に大きく聞こえる。そうした表情もまた青島の魅力のひとつではないかと思える。
青島
青島の西岸、ビロー樹の木陰に立てば、前方には青島海水浴場とその背後に並ぶホテル群の景観が美しい。海水浴場の浜辺は緩やかに孤を描いて、子供の国脇の砂浜へと続き、加江田川の河口を経てさらに北へと延びている。夏の陽射しを浴びて輝く景色も美しいものだが、それらの景観の向こうに日が落ちてゆく夕刻の景色はさらに美しい。
青島
宮崎を代表する観光地、青島。「新婚旅行ブーム」の頃の賑わいは去ってしまったが、それもすでに歴史のひとこまになってしまった。今では周辺にお洒落なカフェなどもあり、かつての「新婚旅行ブーム」を知らない若い世代が、新しい青島観光を支えている。
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INFORMATION
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【所】宮崎市青島
【問】宮崎市観光協会
このWEBページは「日南海岸散歩」内「日南海岸風景」カテゴリーのコンテンツです。
ページ内の写真は2015年夏に撮影したものです。本文は2015年10月に改稿しました。