幻想音楽夜話
Second Helping / Lynyrd Skynyrd
1.Sweet Home Alabama
2.I Need You
3.Don't Ask Me No Questions
4.Workin' for MCA
5.The Ballad of Curtis Loew
6.Swamp Music
7.The Needle and the Spoon
8.Call Me the Breeze

Ronnie Van Zant : vocals
Gary Rossington : Gibson Les Paul
Allen Collins : Gibson Firebird
Ed King : Fender Stratocaster
Billy Powell : keyboards
Leon Wilkeson : Firebird Bass
Bob Burns : drums

Produced by Al Cooper
1974 MCA records inc.
Thoughts on this music(この音楽について思うこと)

 レーナード・スキナードの「スイート・ホーム・アラバマ」のヒットは、まさしく「サザン・ロック」の絶頂期を象徴していたものだったかもしれない。日本ではそれほどのヒットにはならなかったが、すべてのロック・ファンに対して「サザン・ロック」というものの存在感を示すには充分だった。オールマン・ブラザース・バンド、レーナード・スキナード、マーシャル・タッカー・バンドの三組が「三大サザン・ロック・バンド」などと呼ばれたりしたのもこの頃だった気がする。アメリカン・ミュージック・シーンのみならず、ロック・ミュージックというものに於ける重要な潮流として、「サザン・ロック」が確固たる存在感を放っていた時代だった。オールマン・ブラザース・バンドとレーナード・スキナードは、その中で名実共に「サザン・ロック」を代表するバンドだったと言っていい。オールマン・ブラザース・バンドは「サザン・ロック」隆盛の礎を築き、その一翼を担った偉大なバンドだが、一般のロック・ファンにも広く認知されて「ジャンル」として成立した「サザン・ロック」は、ある意味ではレーナード・スキナードこそがその象徴だったかもしれない。そして彼らの代表曲である「スイート・ホーム・アラバマ」、まさにこの楽曲こそは「サザン・ロック」隆盛の象徴だったろう。

 「スイート・ホーム・アラバマ」を収録したレーナード・スキナードのセカンド・アルバムが発表されたのは1974年のことだ。「Second Helping」というアルバム・タイトルも気が利いていて洒落ている。彼らを見出し、デビュー・アルバムのプロデュースを担ったアル・クーパーが、今回もプロデュースを担当した。「フリーバード」などの名曲を収録したデビュー・アルバムもなかなかの好盤だったが、セカンド・アルバムはさらにアルバムとしての「まとまり」感が増し、収録された楽曲も一般のロック・ファンにも広く受け入れられるだろうと思えるようなキャッチーな魅力を増したものが多くなった。アルバムとしての魅力は格段に増し、レーナード・スキナードというバンドの存在感をロック・シーンに見せつける内容だったと言っていい。まさに時代に迎えられた、あるいは時代を引き寄せたアルバムだった。

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 レーナード・スキナードの「セカンド・ヘルピング」は、ヒット曲となった「スイート・ホーム・アラバマ」や「ワーキン・フォー・MCA」など、全8曲を収録した内容だった。J.J.ケイル作の「Call Me the Breeze」を除いて、他の楽曲はすべて彼らのオリジナル曲だ。合計の演奏時間は37分ほど、「Don't Ask Me No Questions」や「Swamp Music」、「The Needle and the Spoon」は3分台だが、「Sweet Home Alabama」や「Workin' for MCA」、「The Ballad of Curtis Loew」などは4分台、「Call Me the Breeze」は5分を超え、スロー・バラードの「I Need You」は7分に近い。シングル曲となった「Sweet Home Alabama」や「Workin' for MCA」、「The Needle and the Spoon」などは特徴的なリフが印象の残る「ハード・ロック」風の楽曲だが、「Don't Ask Me No Questions」は比較的シンプルなロックン・ロール、「Call Me the Breeze」もブルースを基調にしたロックン・ロールだ。「Swamp Music」はタイトルが示すように泥臭い雰囲気を持ついわゆる「スワンプ・ロック」のスタイル、「The Ballad of Curtis Loew」はカントリー調のバラード、「I Need You」ではドラマティックなスロー・バラードを聴かせる。それぞれに曲想は異なっているが、いずれもレーナード・スキナードの演奏としての統一感のもとに集約され、アルバムには散漫な印象は微塵もない。

 三人のギタリストを擁したレーナード・スキナードは、当時「トリプル・リード・ギター」という編成上の特徴が殊更に話題になっていた気もする。三人のギタリストの熱気を帯びたプレイが、ロック・ファンの間で取り沙汰されていたものだ。そうしたレーナード・スキナードのダイナミックな「サザン・ロック」の魅力を如実にファンに伝えたのは、やはり「Sweet Home Alabama」や「Workin' for MCA」、「The Needle and the Spoon」といった楽曲だったのではないか。その「わかりやすく」、耳に残るリフと重厚で豪放なリズム、ラフでルーズなグルーヴ感は、レーナード・スキナードというバンドの最も魅力的な部分を見事に具現化したものだったように思える。もちろん他の楽曲もそれぞれに素晴らしく、特に「I Need You」はアメリカン・ブルース・ロックの最良のもののひとつと言っていい。彼らの演奏を聴くと、アメリカ南部の風土に根ざし、ブルースやカントリーをルーツに持つロック・ミュージックというものの、ひとつの完成形を見る思いがする。このアルバムはレーナード・スキナードというバンドの出世作というばかりでなく、「サザン・ロック」の、そして「アメリカン・ロック」というものの生み出した名作のひとつに挙げられるだろう。

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 実を言えば、個人的には当時それほど「サザン・ロック」というものが好きだったわけではない。当時の個人的な音楽の嗜好は完全に英国のロック・ミュージックに向いていたからで、「サザン・ロック」、あるいは「スワンプ・ロック」などと呼ばれるスタイルのロック・ミュージックは、そのラフでルーズなグルーヴ感が好きになれなかった。しかし、何にでも例外があるように、ここでも例外があった。レーナード・スキナードの「スイート・ホーム・アラバマ」や「ワーキン・フォー・MCA」といった楽曲には説明し難い魅力を感じていたのも事実だった。その「説明し難い魅力」がどこから生まれていたのか、今ではよくわかる。レーナード・スキナードの音楽には「サザン・ロック」としてのスタイルの中にブリティッシュ・ハード・ロック的なイディオムを含んでおり、それが彼らの音楽を他の「サザン・ロック」とは一線を画すものになっていたからなのだが、当時はなかなかそのことに気づかなかった。

 やがて時を経て個人的な音楽の嗜好の幅も広がり、「ジャンル」や「スタイル」に惑わされることなくさまざまな音楽を聴くようになって、「サザン・ロック」の本来の魅力というものにも理解が及ぶようになったが、その中でもやはりレーナード・スキナードの音楽には特別の魅力を感じるのは確かだ。「サザン・ロック」、そして「スワンプ・ロック」というものの裾野は広く、さざまなバンド/ミュージシャンが優れた作品を発表していることは重々承知しているが、個人的な意見を言わせてもらえれば、レーナード・スキナードこそが「サザン・ロック」だ。しかも「セカンド・ヘルピング」だ。デビュー・アルバムも次作以降の作品もそれぞれに素晴らしいし、「サタデイ・ナイト・スペシャル」などはたいへんに好きな楽曲だが、それでもどれかひとつを挙げろと言われれば迷わずに「セカンド・ヘルピング」だ。個人的にはこのアルバムこそが「サザン・ロック」だ。

 冒頭に収録された「スイート・ホーム・アラバマ」、「ワン、ツー、スリー」というカウントに導かれてイントロのギターが聞こえてくると、心はたちまちアメリカ南部の風景の中へと連れ去られてしまう。このシンプルで力強く、肩肘を張らず、大らかで雄大なサウンドこそは「サザン・ロック」の真骨頂だ。エッジの効いた三人のギター・プレイと軽やかに転がるピアノ、そしてロニーの渋く味わい深い歌唱の魅力、程良く力の抜けたルーズなグルーヴ感、この小気味よい心地良さはどうだ。あるいは切々と歌い上げられる「I Need You」、野太さの中に繊細さを滲ませるギター・ソロのせつなさはどうだ。そしてまた「サザン・ハード・ロック」とでも呼びたくなるような、「Workin' for MCA」や「The Needle and the Spoon」の豪放で雄大なロック・サウンドの痛快さはどうだ。このような演奏を聴いていると、ロック・ミュージックというものに殊更に斬新さを求めたり、美しく劇的な構成を求めたりすることがひどく小賢しいことのようにさえ思えてしまうのだ。彼らの歌と演奏には、ロック・ミュージックというものの根元的な、シンプルな力強さがある。彼らの歌と演奏は、ロック・ミュージックというものの、本質的な在り方のひとつを具現化したものだと言ってもいいのだ。

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 「サザン・ロック」の隆盛から三十余年を経て、今ではこうしたロック・ミュージックはシーンの主流ではない。個人的にも日常的に聴いたりはしない。しかし、ときおり、ふと何かの拍子に、頭の中に「スイート・ホーム・アラバマ」のイントロのギターが響き渡ることがある。自分の感性の中で何がスイッチの役目をしているのかはわからないが、ときおりふと無性にレーナード・スキナードの演奏を聴きたくなることがあるのだ。

 アラバマには行ったことはない。アメリカ南部の風景は、さまざまな書物やニュース映像や、そして音楽の中に、憧れと共に思い描くだけだ。しかし、ひとときレーナード・スキナードのサウンドに浸りながらロニーと一緒にアラバマへの賛歌を歌おう。スイート・ホーム・アラバマ、と。