幻想音楽夜話
Stray Dog
1.Tramp (How It Is)
2.Crazy
3.A Letter
4.Chevrolet
5.Speak Of The Devil
6.Slave
7.Rocky Mountain Suite (Bad Road)

Snuffy Walden : guitar and vocals.
Alan Roberts : bass, keyborads and vocals.
Leslie Sampson : drums.

Produced by Greg Lake (1,3,5)
Produced by Stray Dog (2,4,6,7)
1973
Thoughts on this music(この音楽について思うこと)

 1973年初頭、当時のロック・シーンの頂点の一角に登り詰めていたエマーソン・レイク&パーマーは、より自由な創造の場と新人発掘育成の機会を求めて自身のレーベルを発足させる。「マンティコア」である。その「マンティコア」から、同年にうちにピート・シンフィールドのソロ・アルバム「Still」やPFMの世界デビュー盤「Photos Of Ghosts」などが発表されるわけだが、そうしたいわゆる「プログレッシヴ・ロック」の作品に混じって、アメリカ出身のトリオ・バンドによるヘヴィなハード・ロック・アルバムが発表されている。バンドの名は「Stray Dog(ストレイ・ドッグ)」という。

 このStray Dogは「Aphrodite」という名のテキサス出身のトリオが母体で、1972年に行われたEL&Pの全米ツアーで前座を務め、グレッグ・レイクに認められてマンティコアとの契約が実現したのだという。ところがその後にドラマーが脱退してしまったため、イギリス人ドラマーを加えてバンド名も「Stray Dog」と変えてデビューに至った。だからストレイ・ドッグはギターのスナッフィ・ウォルデンとベースのアラン・ロバーツのふたりがアメリカ人、ドラムのレスリー・サンプソンがイギリス人という、英米混合編成のバンドだった。当時、こうした英米混合編成のグループはそれほど多くはなく、そのことが少しばかり話題にもなった。

 何しろEL&Pの設立したレーベルから、アメリカの、それもテキサス出身のハード・ロック・バンドがデビューしたというので、当時のファンの間では当惑や期待が入り交じって話題になったものだ。ファンだけでなくロックを嗜好する音楽関係者の間でも、そのようなストレイ・ドッグというバンドは興味の対象となったらしく、当時のラジオの音楽番組でストレイ・ドッグのデビュー・アルバムが紹介されることも(決して多いわけでもなかったが)あり、収録曲の何曲かを耳にする機会にも恵まれた。ストレイ・ドッグの楽曲を耳にしたファンの多くが、アメリカン・ロックらしからぬ、その演奏に驚きを感じたのではないかと思う。アメリカン・ロック的な豪放さの中に、劇的で陰影に富んだブリティッシュ・ロック的な味わいを感じさせる楽曲の構成と演奏は、当時のロック・シーンに於いてなかなか新鮮に感じられたものだった。なるほどグレッグ・レイクが見いだしたバンドだけのことはある、と、妙な納得の仕方をしたりしたものだ。

節区切

 ストレイ・ドックの音楽はブルージーなハード・ロックだ。「Tramp (How It Is)」のイントロ部などでは「プログレッシヴ・ロック」的な方法論も垣間見えるが、基本的な立脚点はハードに展開するブルース・ロックだと言っていい。ルーズなグルーヴに乗ってエキセントリックなギターが響き渡る演奏はジミ・ヘンドリックスの演奏などを彷彿とさせてエキサイティングだ。その演奏は「ブルース・ロック」から正常進化した「ハード・ロック」としての「お手本」とも言えるものだろう。何しろその重厚感がいい。ギター、ベース、ドラムのそれぞれの演奏が重厚で硬質な音像を響かせ、それぞれに主張し合い、競い合い、ブルージーなヴォーカルと絡み合いながら音楽としての形を成してゆく様はぞくぞくとするような興奮を誘う。

 ストレイ・ドッグのロックには軽やかな疾走感というものはほとんど感じられない。だからその音楽は「ノリの良いロックン・ロール」といったものとは別種のロック・ミュージックだが、当時のブルース・ロック系のハード・ロックを愛するファンであれば思わず身体が動いてしまうようなグルーヴを持っていることも確かだ。縦横無尽に響き渡るギター、唸るベース、シンバルを多用したドラムなど、1970年代初期のハード・ロックの魅力に満ちた演奏だ。ヴォーカルもとてもいい。アルバムはもちろんスタジオ録音盤だが、ライヴ感覚溢れる演奏は迫力があって引き込まれてしまう。実際のライヴではさらにエキサイティングな演奏が披露されていたことだろう。

 「Tramp (How It Is)」や「Crazy」といった楽曲は、彼らのそうした重厚なブルース系ハード・ロックを堪能できる楽曲で、聴き応え充分、ストレイ・ドッグの音楽を象徴するような楽曲と言っていい。「Chevrolet」や「Speak Of The Devil」、「Slave」といった楽曲も重厚な硬質感が魅力のハード・ロックだ。「A Letter」ではアコースティックな感触のスローな演奏も聴かせてくれる。重厚でハードな演奏ばかりではない、ストレイ・ドッグの懐の深さが感じられる楽曲だ。「Rocky Mountain Suite (Bad Road)」は8分を超える「大作」だ。リリカルな感触の前半部からやがてハードでヘヴィな演奏へと展開されてゆく様子がドラマティックでエキサイティング、アルバム全体の構成をしっかりと締めくくってくれる。

 「Tramp (How It Is)」と「A Letter」、そして「Speak Of The Devil」の3曲をグレッグ・レイクがプロデュースし、残る4曲、「Crazy」、「Chevrolet」、「Slave」、「Rocky Mountain Suite (Bad Road)」はバンド自身がプロデュースしたものという。変則的な構成だが、両者の音像にそれほどの感触の違いはなく、アルバム全体の統一感は保たれていると言っていい。シンプルな構成のハード・ロックの楽曲に交えてアコースティックな感触の楽曲をひとつ配し、冒頭にはバンドの魅力を最も象徴する楽曲を、そしてラストにはドラマティックな大作を置く、というアルバム構成も当時のハード・ロック・アルバムの定石とも言えるものだろう。そのアルバムの構成の妙もまたファンにとっては「聴き所」のひとつと言えるに違いない。

 ブリティッシュ・ロック的な味わいのドラマティックな感触のハード・ロックを、そこにさらにアメリカン・ロックの豪放さを加えて実現した、とでもいうような感触がストレイ・ドッグのロックにはあった。その豪快さはアメリカン・ロック的だが、大陸的な雄大さはあまり感じられず、音像の感触もしっとりとした湿度を感じさせるものだ。英国ロックの佇まいの中にアメリカン・ロック的な豪放な演奏が響き渡る、その感触がなかなか痛快だった。

節区切

 マンティコアからデビューし、当時のハード・ロック・ファンの期待を背負ったストレイ・ドッグだったが、このデビュー・アルバムを発表した後、メンバーを増やして五人編成となり、セカンド・アルバムではずいぶんとアメリカナイズされた演奏へと音楽性も変化した。しかしそうした変化はファンの期待や時代の要請というものに合致していなかったのだろう。評判は芳しくなく、セールス的にも成功を得ることはできず、けっきょくストレイ・ドッグは解散へと至ってしまう。

 そのような背景もあってか、このストレイ・ドッグのデビュー・アルバムは当時の「ハード・ロック」を愛するファンから半ば伝説的な評価を受けることになるのだが、確かにそうした評価に恥じない内容のアルバムだと言うことができるだろう。「ロック史上に残る名盤」というわけではないが、当時のブルース系ハード・ロックを好むファンにとってはそのエッセンスに溢れた魅力ある名品であることは間違いない。マンティコアの遺した逸品である。