鹿児島市加治屋町の甲突川左岸に「歴史ロード“維新ふるさとの道”」という散策路が整備されている。幕末から維新期にかけての薩摩の歴史を紹介するプロムナードだ。歴史ロード“維新ふるさとの道”を訪ねた。
維新ふるさとの道
維新ふるさとの道
維新ふるさとの道
江戸時代の薩摩藩では、城下の居住地を「方限(ほうぎり)」、あるいは「郷(ごう)」と呼ばれる区域に分けていたそうだ。その区域ごとに「郷の相中(あいなか)」、略して「郷中(ごうじゅう)」を設けて武士子弟の教育に当たっていたという。この郷中教育は薩摩藩独特のもので、先輩が後輩を指導し、同輩は互いに助け合うという「教師なき教育」だったそうだ。郷中では武士道を第一とし、精神と肉体を鍛錬し、虚飾を排して何事にも質実剛健といったことを幼少期から教え込まれ、上下関係にも厳しかった。

幕末には33の郷中があったそうだが、その中のひとつ、下加治屋町郷中は西郷隆盛や大久保利通、西郷従道、大山巌、東郷平八郎といった錚々たる偉人たちを輩出した郷中として知られる。その下加治屋町方限があったのが、現在の鹿児島市中央部、甲突川左岸に位置する加治屋町である。現在の加治屋町は江戸時代には下級武士の居住地で、上加治屋町と下加治屋町などに分かれ、それぞれに郷中が置かれていたという。

加治屋町の甲突川河岸、甲突川左岸緑地に「歴史ロード“維新ふるさとの道”」と名付けられたプロムナードが整備されている。加治屋町が西郷隆盛や大久保利通らを輩出した下加治屋町郷中のあった町ということに因んで設けられたものだろう。
維新ふるさとの道
維新ふるさとの道
「歴史ロード“維新ふるさとの道”」は高見橋から高麗橋までの500mほど、「大久保利通生い立ちの地」や「西郷隆盛誕生地」といった史跡が点在し、「二つ家(ふたつや)」と呼ばれる下級武士の屋敷の展示などもある。各所に江戸時代から維新期にかけての薩摩藩に関する解説パネルも設置されており、それらに丹念に目を通してゆけば当時の薩摩の歴史のひとこまに触れることができる。中間地点付近、南洲橋の袂には「維新ふるさと館」という資料館も建っており、それも併せて見学すれば、薩摩の歴史についての理解もより深まるだろう。

甲突川の河岸からは少し離れるが、加治屋町内には大山巌誕生地や東郷平八郎誕生地なども点在している。それらを巡ってみるのも一興だろう。
維新ふるさとの道
維新ふるさとの道
幕末の動乱期から明治維新にかけての薩摩の歴史に思いを馳せつつ、川風に吹かれながら散策を楽しむのは素敵なひとときだ。「維新ふるさと館」横、南洲橋の袂には河岸の散策路から川面近くへ降りてゆけるように石段が設けられており、降りてゆけば低くなった視点からまた違った表情の景観が楽しめる。南洲橋は1997年(平成9年)に完成したもので、歩行者専用の橋だ。木製の路面と欄干が良い風情だ。

東端部で甲突川を跨ぐ高麗橋はかつては石橋だったそうだ。以前は甲突川には五つの石橋が架かっており、「甲突川の五石橋」として親しまれていたという。しかし1993年(平成5年)8月の集中豪雨により、その二つが流失してしまった。高麗橋は流失を免れ、残った三橋は祇園之洲地区の公園内に移設、保存されている。興味のある人は訪ねてみるといい。
大久保利通像
大久保利通誕生之地碑
「歴史ロード“維新ふるさとの道”」の西端部、高見橋の北東側の袂(すなわち「歴史ロード“維新ふるさとの道”」の道路向かい)には大久保利通像が建っている。髭をたくわえ、上着の裾を風に翻し、凜々しい姿で立つ大久保の像は明治新政府で手腕を発揮していた頃の姿だろう。鹿児島市を訪れたなら、この大久保利通像もぜひ見ておきたい。

「歴史ロード“維新ふるさとの道”」の東端部である高麗橋を渡った甲突川右岸部、「ナポリ通り」の「高麗橋」交差点から東へ100mほど行った辺り、「大久保利通誕生之地」がある。今は駐車場の片隅にひっそりと碑が建っているだけだが、足を伸ばして見てみるといい。
維新ふるさとの道
維新ふるさとの道
「歴史ロード“維新ふるさとの道”」は高見橋から高麗橋までの500mほどだが、甲突川左岸緑地はさらに甲突川の下流川へ、天保山橋まで延びている。高見橋から天保山橋まで2kmほどか。地元の人たちの散策コースとして親しまれているようで、行き交う人の姿も少なくない。

今回「歴史ロード“維新ふるさとの道”」を訪ねたのは八月半ばの夕暮れに近い時刻、昼間の暑さも少し退いて、涼やかな川風に旅情を誘われる。甲突川の流れに誘われるままに散策の足を延ばしてみるのもいいかもしれない。
参考情報
交通
鹿児島中央駅から高見橋まで徒歩で数分、高麗橋までナポリ通りを経由して徒歩で10分ほどだ。鹿児島市電を利用する場合は高見橋電停で下車すれば高見橋まですぐだ。

維新ふるさとの道には来訪者用の駐車場はないが、周辺の市街地に民間駐車場が数多く点在している。車で訪れるときにはそれらを利用するといい。

維新ふるさとの道は鹿児島市街のほぼ中心部に位置している。遠方から車で訪れる場合には九州自動車道や国道3号、国道10号などを利用して、まず鹿児島市中心部を目指すといいだろう。

飲食
維新ふるさとの道近くには飲食店が少ないが、鹿児島中央駅周辺や天文館周辺へと足を延ばせばさまざまな飲食店が点在している。高見橋から天文館まで徒歩で十数分、市電を利用するのも便利だ。

周辺
高見橋から東へ1kmほどで天文館、天文館交差点から北西へ数百メートル辿れば照国神社、照国神社前から国道10号(磯街道)を北へ辿れば西郷隆盛像の前を経て数百メートルで鶴丸城趾だ。徒歩でも充分に回れる範囲だ。

市営や民営の周遊バスを利用すれば、さらに城山や石橋記念公園仙巌園、「いおワールドかごしま水族館」といった観光スポットを便利に巡ることができる。水族館前のバス停で降りると桜島フェリーターミナルが目の前だ。桜島フェリーは昼間は15分間隔で運行し、鹿児島港と桜島を約15分で繋ぐ。桜島へも気軽に渡ることができる。

車で訪れた場合は、鹿児島中央駅近くの駐車場へ車を駐め、鹿児島市電や周遊バスを利用して市内観光を楽しむのがお勧めだ。
町散歩
鹿児島散歩