幻想音楽夜話
この作品について想うこと
Photos Of Ghosts / Premiata Forneria Marconi
(幻の映像)

1.River Of Life
2.Celebration
3.Photos Of Ghosts
4.Old Rain
5.Il Banchetto
6.Mr. 9'till 5
7.Promenade The Puzzle

Flavio Premoli - keyboars & vocals.
Franz Di Cioccio - drums & vocals.
Giorgio Piazza - bass.
Franco Mussida - guitar & vocals.
Mauro Pagani - violin & woodwind.

Celebration and Old Rain produced by Pete Sinfield
who also remixed the other tracks
and produced the English vocals.
Original Italian production by P.F.M. and Claudio Fabi.

 その音楽は、薄く広がる朝靄をついて差す陽光のようだった。暖かく懐かしく響くその音楽は、それまで知らなかった新しい世界へ聴く者を容易に連れ去ってしまった。イタリアのバンド「PFM」が1973年に発表した「Photos Of Ghosts」は、そんなふうに現れた。

 PFMは当時人気絶頂期にあったEL&Pによって見いだされたのだという。イタリア本国ではすでに二枚のアルバムを発表していたものの、それまで世界的にはほぼ無名のバンドだったと言っていい。EL&Pが設立したばかりだった「マンティコア」レーベルから、PFMは全世界へのデビューの機会を得た。そのデビュー作が「Photos Of Ghosts」だった。イタリアで発表済みだった二枚の作品から選ばれた楽曲に新曲を加え、英語詩の創作とプロデュースにはピート・シンフィールドが協力を惜しまなかった。

 それらの事柄だけでも話題性は充分だっただろう。「EL&Pがイタリアで見つけ、自身のレーベルから世界に送り出すバンド」に、当時のプログレッシヴ・ロックのファンは期待を隠さなかった。そして発表された作品「Photos Of Ghosts」はその期待を遙かに凌駕していたのだった。

 彼らの音楽はそれまで聴き馴染んでいたどのようなロック・ミュージックとも異なった感触を持っていた。それは彼らの音楽的素養、それを育んだ風土に起因するものであったかもしれない。彼らの音楽の根底には常に明るい陽光の暖かさとでもいうものが共通している。動的な楽曲も静的な楽曲も、幻想的なイメージの楽曲であっても、それは変わらない。それがイタリアという国の風土を連想させ、聴く者に新鮮な驚きをもたらしたのかもしれなかった。

 クラシックの基礎を学んだメンバーの演奏テクニックは素晴らしく、奏でられる音楽はまさに変幻自在、めまぐるしくその印象を変化させつつ、ひとつのイメージへと収束してゆく。当時の音楽雑誌のインタビューに応えて、「とりあえず担当の楽器は決まっているのだが、誰がどの楽器を演奏してもほぼ同様のクオリティの演奏を行うことができる」という意味のことを、メンバーが豪語していたように記憶している。実際にステージでは担当以外の楽器を演奏することもあったという。ギター、ベース、ドラムとキーボード群という、通常のロック・ミュージックに使われる楽器群に加え、バイオリンやフルートがその音楽に大きな役割を持っていたことも特筆すべきことであっただろう。もちろんバイオリンやフルートを用いるバンドは他にもあったが、彼らほど全体のアンサンブルとして統一された例はそれまであまりなかったのではないか。

 彼らの音楽は聴く者の脳裏に映像的なイメージを強く喚起させる。その映像は「絵画的」という形容がまさに相応しい。音楽によって想起される一枚の「絵画」は、その奥に潜む物語性を帯びてさらに聞き手の想像力を刺激する。聞き手の描くイメージは現実の世界を軽々と跳び越えて、遙かな古代の田園風景や異世界の河畔を旅するだろう。それらの情景は見知らぬものでありながらどこか懐かしく、理由のない回帰願望を抱かせるものですらある。

 叙情的なギターの音色から始まり、雄大なスケールの中に哀愁を感じさせる「River Of Life(人生は川の流れ)」。唸りをあげるシンセとそれに絡むフルートの音色が印象的な「Celebration」は躍動感に溢れ、まさに「祝賀」というイメージに相応しい。アルバムのタイトル曲となった「Photos Of Ghosts(幻の映像)」はそのタイトルが連想させるように幻想的な映像美が美しく、聞き手を幻惑の世界へと導いてくれる。そこから一転、「Old Rain」の紡ぎ出す静けさに満ちた世界は、まさに古(いにしえ)の時代の雨の情景をイメージさせて素晴らしい。

 LP時代にはB面の冒頭を飾った「Il Banchetto(晩餐会の三人の客)」はこの作品中でただ一曲、イタリア語で唄われる。めまぐるしく変わる音楽の表情に翻弄され、まるで夢の中の迷路を彷徨っているような感触をもたらしてくれる。想像力を刺激する邦題も秀逸だ。「Mr. 9'till 5(ミスター9〜5時)」はテクニックに任せた演奏とポップな歌唱部分が印象的で、中間部で聴かれる軽快なメロディにも耳を奪われる。作品の最後を締める「Promenade The Puzzle」は幻想的な楽曲だ。その幻惑的な響きは呪術的なイメージさえ伴って聞き手を誘う。

 彼らの音楽は絵画的で幻想的だが、耽美的に過ぎるというわけではない。緩と急、静と動、自在に表情を変える音楽の感触はとても刺激的だ。クラシカルな美しさに彩られつつ、やはりその根底には「ロック・ミュージック」としてのアグレッシヴな演奏の魅力が脈打っていると言ってよいだろう。

 このアルバムの登場は、それまで一部のファンにとってのマニアックなものでしかなかった欧州各国のロック・シーン、特にイタリアのロック・シーンに他のロック・ファンの注目を集めるきっかけになったと言ってもよいだろう。PFMの音楽に魅せられ、さらに同様の音楽を求めてイタリアのロック・シーンに足を踏み込むことになったプログレッシヴ・ロック・ファンは少なくない。イタリアの風土が生んだロック・ミュージックのいくつかは後に「イタリアン・シンフォニック」などと形容され、マニアックなファンに支持されるひとつの「ジャンル」にまでなった。

 そうしたファンのほとんどはPFMが「Photos Of Ghosts」以前に本国で発表した二枚のアルバムにも目を向けた。その二枚のアルバムもまた、PFMのファン、プログレッシヴ・ロックのファンに大いに支持されることになった。「Photos Of Ghosts」よりそれらの作品を好むファンさえ少なくない。そうしたファンにとっては、イタリア語で唄われる初期二枚の作品こそがPFMの本来の魅力を表現しているのであり、「Photos Of Ghosts」は一種の「企画物」的作品でしかないのかもしれない。

 確かに、「Photos Of Ghosts」に於けるピート・シンフィールドの存在は大きい。ピート・シンフィールドによる英語の詩作は原詩の意味に囚われていない。彼はこの作品での詩作に際してPFMの音楽から受けた印象によって自由に想像力を羽ばたかせている。そうした意味では、キング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」においてシンフィールドが「作詞」担当のメンバーとして名を連ねていたのと同様に、「Photos Of Ghosts」をPFMとシンフィールドとのコラボレーション・アルバムと見なすことも可能かもしれない。

 しかしだからと言って、そのことが「Photos Of Ghosts」の作品としての完成度を貶め、その「名作」としての評価の正当性を妨げるものではない。ピート・シンフィールドの感性とその創作を受け入れることによって、PFMの音楽はさらなる新たな地平の上に展開されたのであって、決してその本来の魅力を欠いてしまったものではない。「Photos Of Ghosts」の制作に当たってはPFMとピート・シンフィールドの双方が並々ならぬ情熱を傾けたと、後にPFMのメンバーは語る。PFMのメンバーはシンフィールドの詩作に感銘を受け、シンフィールドもまたPFMの音楽に傾倒していたという。双方はお互いをよく理解し、深い信頼で結ばれていたのだろう。そうでなければこれだけの作品を生み出すことも不可能だったに違いない。

 PFMが世界デビューを果たして後、しばらくはPFMのコンサート・ツアーにピート・シンフィールドやグレッグ・レイクが同行し、深く関与していた時期もあったのだという。彼らもまたPFMの音楽に深く魅せられた多くの人々の中のひとりだったのだろう。

This text is written in November, 2001 by Kaoru Sawahara.
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