幻想音楽夜話

Dr. Siegel's Fried Egg Shooting Machine /
Flied Egg
1.Dr. Siegel's Fried Egg Shooting Machine
2.Rolling Down The Broadway
3.I Love You
4.Burning Fever
5.Plastic Fantasy
6.15 Seconds Of Schizophrenic Sabbath
7.I'm Gonna See My Baby Tonight
8.Oke-kus
9.Someday
10.Guide Me To The Quietness

Shigeru Narumo : guitar, acoustic guitar, HAMMOND organ, piano, moog synthesizer, harpsicord, distorted organ, chelesta, vocal, equalized vocal harmony, toy instrument, sound effect
Hiro Tsunoda : drums, percussions, lead vocal, high boosted vocal harmony, toy instrument, jokes, noise
Masayoshi Takanaka : bass guitar, bowing guitar, acoustic guitar, vocal, vocal harmony, toy instrument

Produced by Masaharu Honjo & Shigeru Narumo
1972 NIPPON PHONOGRAM
Thoughts on this music(この音楽について思うこと)

 1971年に「ストロベリー・パス」の名義でアルバム「When The Raven Has Come To The Earth(大烏が地球にやってきた日)」を発表した成毛滋とつのだひろの二人は、エスケープというバンドのギタリストだった高中正義をベーシストに迎えてトリオとなり、「フライド・エッグ」と名を変えて活動を開始する。余談だが、グループ名の「フライド・エッグ」は英語表記では「Flied Egg」とされているが、この「Flied」は造語である。「油で揚げる」意味の「フライ」なら「L」ではなく「R」を用いて「fried」とすべきであるし、「飛ぶ」意味の「フライ(fly)」の過去形は「flew」であるからだ。フライド・エッグは1971年から1972年にかけてレコーディングを行い、1972年にアルバムを発表する。「Dr. Siegel's Fried Egg Shooting Machine(Dr.シーゲルのフライド・エッグ・マシーン)」である。

 アルバム「Dr. Siegel's Fried Egg Shooting Machine(Dr.シーゲルのフライド・エッグ・マシーン)」は「日本初のプログレッシヴ・ロック・アルバム」と評されることもあり、日本ロック黎明期の金字塔的作品として名を残している。その音楽性は「ストロベリー・パス」名義で発表された「When The Raven Has Come To The Earth(大烏が地球にやってきた日)」の延長上にあり、「ストロベリー・パス」から「フライド・エッグ」と名義は変わっているが、実質的には成毛滋とつのだひろが主体になったユニットでのニュー・アルバムだと解釈することもできるだろう。「フライド・エッグ」と名を変えたのはベーシストを加えた新しい「バンド」として新たな活動とアルバム制作に望みたかったという思いの表れだったのかもしれない。事実、このアルバムではゲスト・ミュージシャンを迎えず、すべて三人のメンバーのみの演奏によって制作されている。

節区切

 このアルバムが「日本初のプログレッシヴ・ロック・アルバム」と評されるのは、ひとつには収録曲の中に当時の「プログレッシヴ・ロック」のスタイルで演奏された楽曲が含まれているからだが、アルバム全体の佇まいは必ずしも「プログレッシヴ・ロック」的であるわけではない。ただ、このアルバムが当時の日本のロック・ミュージシャンによる、ありとあらゆる「挑戦」に満ちていることは確かだ。当時の成毛滋のブリティッシュ・ロックへの支持と憧憬の想いは想像に難くないが、その「想い」の対象であるブリティッシュ・ロックのイディオムに基づいて制作された彼らのロック・ミュージックが、結果的に当時の日本ロック・シーンの水準から考えれば遙かに「進歩的」であったことは確かなのだ。そうした意味で、このアルバムに対する「日本初のプログレッシヴ・ロック・アルバム」という評価を捉えることもできるだろう。

 当時、成毛滋がこのアルバムの制作に対して「大真面目」な姿勢だったのか、あるいは「何でもあり」の遊び感覚を伴っていたのか、それはわからない。アルバムの収録曲のタイトルなど、今になってみれば少しばかり微笑ましく感じられるようなものも少なくはない。例えばタイトル曲の「Dr. Siegel's Fried Egg Shooting Machine」は、そのタイトルの単語の並びや冒頭に収録された導入部的楽曲である点などで、ビートルズの「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」を想起させるものだし(「Dr. Siegel(シーゲル)」はもちろん成毛滋の「滋(シゲル)」だろう)、あるいは「15 Seconds Of Schizophrenic Sabbath」はキング・クリムゾンの「21st Century Schizoid Man」に用いられた「Schizoid」という単語やブラック・サバスの名との関連を想起させるものだ(「Strawberry Path」名義で発表された「When The Raven Has Come To The Earth」には「Maximum Speed Of Muji Bird (45 seconds of schizophrenic sabbath)」というタイトルの収録曲もあった)。そしてまた「Oke-kus」はEL&Pの「Tarcus(タルカス)」を「樽カス」と置き換え、それを「桶カス」と変えて「Oke-kus」としたものであるらしい。こうした端々に当時の成毛滋のブリティッシュ・ロックへの傾倒ぶりが窺えるところだが、そうしたことをひとつひとつ検証してみても意味はあるまい。そこにはただ、当時の成毛滋というミュージシャンの、ブリティッシュ・ロックへの憧憬の想いが見て取れるだけだ。

節区切

 このアルバムには当時のブリティッシュ・ロックの匂いが濃厚に満ちている。1960年代末から1970年代初頭にかけての頃の、「ハード・ロック」や「プログレッシヴ・ロック」といったスタイルが生み出された、「勢い」のあったブリティッシュ・ロックの匂いが、このアルバムにはある。

 冒頭の「Dr. Siegel's Fried Egg Shooting Machine」はそうしたアルバムのスタンスを象徴する楽曲だろう。ハード・ロック的手法の中にプログレッシヴ・ロックのイディオムをちりばめ、適度な遊び感覚を含んだ、彼らのテーマ曲的作品と言っていい。続く「Rolling Down The Broadway」は当時の日本ロックの生み出したハード・ロックの名曲のひとつだ。ハードなギターリフと幻惑的なコーラスが強く印象に残る楽曲だが、全体の完成度は高く、当時の日本ロックに興味ある人なら一度は聴いてみなくてはならないと言っても過言ではないほどの名曲だ。「I Love You」はストリングスも加えたアレンジの、甘美なバラードで、「When The Raven Has Come To The Earth」に於ける「Mary Jane On My Mind」に相当する楽曲だが、「Mary Jane On My Mind」ほど切々とした曲想ではなく、どこか晴れ晴れとした印象があるのがいい。「Burning Fever」は再び成毛滋のハードなギターが響き渡るハード・ロックだ。

 「Plastic Fantasy」は少々幻想的な味わいを持ったバラードだ。「I Love You」のような甘美な印象はなく、オルガンをメインに据えた演奏はプログレッシヴ・ロック的印象を伴っている。途中から曲調が変わり、軽快な曲想へと転じるところがおもしろい。「15 Seconds Of Schizophrenic Sabbath」は演奏時間15秒間のコーラスによる小品で、要するにインタールードだ。「I'm Gonna See My Baby Tonight」はオルガンの響きが印象的なハード・ロックだが、ユーライア・ヒープの演奏(特に「Look At Yourself」)を強く想起させるもので、当時の彼らの音楽的指向が見て取れるようで興味深い。「Oke-kus」はEL&Pの演奏にインスパイアされた演奏であることは明白だ。キース・エマーソンの演奏を彷彿とさせるオルガン演奏を主体にしたインストゥルメンタルの楽曲で、このアルバム中で最も「プログレッシヴ・ロック」的香りに満ちた楽曲だ。「Someday」は再び甘美な味わいのバラードだ。親しみやすく哀感のあるメロディが印象的な楽曲で、ストリングスも加えられたアレンジだが、ギターソロも加えられて聴き応えのある佳曲に仕上がっている。ラストの「Guide Me To The Quietness」は演奏時間8分超という楽曲で、アルバムの最後を飾るのに相応しい「大作」だ。タイトルからも察しがつくが、少しばかり幻想的な色彩を帯びた哀感漂う曲想で、ドラマティックな展開を見せる。

 これらの収録曲のうち、インストゥルメンタル曲と成毛自身の作詞による「Burning Fever」を除く全曲の歌詞を、ザ・フィンガース時代からの盟友である蓮見不二男(Christopher Lyn)が書いている。作曲の方は「Dr. Siegel's Fried Egg Shooting Machine」と「Rolling Down The Broadway」、「Guide Me To The Quietness」、そしてインストゥルメンタル曲と「Burning Fever」を成毛滋、「I Love You」と「Someday」をつのだひろ、「Plastic Fantasy」と「I'm Gonna See My Baby Tonight」を高中正義が担当している。「I Love You」と「Someday」がつのだひろの作曲であるところなどは”いかにも”という感じだが、特筆すべきは高中がすでに2曲を提供していることだろうか。高中は1953年の生まれだからこのアルバムが発表された1972年にはまだ19歳だったことなるが、1947年生まれの成毛と1949年生まれのつのだのふたりを相手に堂々とした存在感を示している。その才能の片鱗が窺えるところだ。

節区切

 「Dr. Siegel's Fried Egg Shooting Machine(Dr.シーゲルのフライド・エッグ・マシーン)」は「When The Raven Has Come To The Earth(大烏が地球にやってきた日)」と同様に当時のブリティッシュ・ロックのイディオムに彩られた作品だ。そこには「日本のロックとしてのオリジナリティ」といったものを確立しようという姿勢はほとんど感じられない。そこにあるのは、彼らが心酔し、支持し、憧れる対象である「ブリティッシュ・ロック」というものを、自分たちもやるのだという、潔いほどの志だけだ。おそらく当時の成毛滋というミュージシャンの心の中には「ロック・ミュージック」というものの理想形がはっきりと見えていたのに違いない。その理想形に向かって創造された音楽がここに形を成したのだと言っていいのだろう。

 「Dr. Siegel's Fried Egg Shooting Machine(Dr.シーゲルのフライド・エッグ・マシーン)」は、しかし成毛滋にとって必ずしも満足できるものではなかったかもしれない。「ハード・ロック」や「プログレッシヴ・ロック」や甘美なバラードが混在するアルバム内容はやはり少しばかり散漫さを感じさせるのも事実だ。けっきょく当時の彼らにはやりたいことが多すぎたのではないか。アルバム全体の完成度から言えば決して「傑作」と呼べるものではあるまい。それでも、1972年に発表された日本ロックのアルバムとして、ここまで徹底的に当時の「ブリティッシュ・ロック」のスタイルにこだわって造られた音楽作品としての意義は大きい。黎明期の日本ロック・シーンに於ける、まさに記念碑的作品であるだろう。そして重ねて言うが、当時の日本ロックというものに興味のある人なら皆一度は「Rolling Down The Broadway」を聴いてみなくてはならない。この楽曲を聴かずして、1970年代日本ロックを語る資格はない。
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